第2章 その(6) [小説 < ツリー >]
ミステリーUFO
第2章 その(6)
もう、社殿など見る価値はないように思ったが、他に見る物もないので覗いてみた。思ったように、中央の一段高いところに鏡らしき物が置いてある。あの鏡に神様が宿るのだろう。それにしても鏡とは面白い。覗きこめば映し出されるのは自分なのだから。でも、昔の鏡は滅多にお目にかかれない貴重品だし、姿を映し出すこと自体不思議なことで、そこに神の働きを感じたのかも知れない。
それにしても、お寺には仏像があり、神社には鏡。仏と神とどう違うのだろう。中学校で習った歴史では、日本には元々たくさんの神々が居て、森の巨木にも神が宿ると考えていたらしい。そのうち、巨木の傍らに屋根を造り、いつの間にか神が屋根の下に入り、そして鏡になった。確かそんな風だったように思う。そして後から仏教が伝わった。当時仏教は最新科学のような扱いだったのかも知れない。古来の神々も居て外来の仏も大事。当時の人は困って便利な考えを発明した。たしか、神仏習合とかいった。まぁ、神も仏も同じみたいな乱暴な考えなのかも知れない。
でもそんなことはどうでもいい。昔の人が大木に神が宿ると思ったのはきっと正しいと思う。そんな気がする。田舎の家では、家の中のあちこちに神様がいた。もう、部屋ごとに神様が居ると言っても言い過ぎじゃないくらいだった。
仏様は信じるもので、神様は感じるもの……。そんな考えが頭に浮かんだ。
でも信じるって、何を信じるのだろう。仏教の最初の人、釈尊が感じて見つけたものを信じるのか。そうなると、神道にはそんな人はいないから、それぞれに感じたものが神様になるのだろうか。いったい日本全国にどれほどの神様が居るのだろう。そんなことを考えながら、社殿を一回りした。
石段のところまで行くと、手すりに掴まり、白い杖をついて中程で休んでいる老婆を見つけた。上から、
「おはようございます、大丈夫ですか」
と、声をかけながら老婆に近づいた。
「あ、あっちへ行ってくれ、お前は人間じゃないね、ここの神様でもない。キツネか、いや違う、寒気がする、ほっといてくれ」
老婆の慌て方は普通ではない、この俺がなんだっていうんだ。目が不自由そうだから声をかけただけじゃないか。かなりボケているのかも知れない。
「俺は普通の人間ですよ、安心してください」と、ゆっくり優しく言った。
「だまされないよ、ここで五十年も巫女をしてきた私にはお前が人間じゃないって分かるんだよ。早く行かないとひどいよ」
老婆は白杖を振り上げるようにして叫んだ。
いったい何だ、人が心配して声をかけたのに、先ほどの清々しい気分が吹っ飛んでしまった。俺は罵声でも浴びせたい気持ちだったが、
「わかった、わかったよ」と、吐き捨てるように言って石段を下りた。
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