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第7章 その(1) [小説 < ツリー >]

日本の公安警察 (講談社現代新書)

日本の公安警察 (講談社現代新書) (新書)

青木 理 (著)

 

 

                              第7章 その(1)

 部屋に戻るとそのまま倒れ込むように眠ってしまった。夢の中に加代子が現れ、源三郎に弄ばれながら俺に救いを求めている。助けようとするが俺は霊体になってしまいどうすることもできない。喘ぐ加代子の顔がドロドロと溶け始め骸骨になり、源三郎は満足気な笑みを浮かべ俺を見ている。源三郎に掴みかかろうとするが、手は空を切り身体に触れることも出来ない。

 目覚めると脇の下や額に汗をかいているのがわかった。時計を見ると昼を少し過ぎている。ずっと部屋の暖房を入れたまま眠ったようだ。布団の上で汗を拭ったが何をする気力も湧いてこない。昨夜までの出来事が全て夢だったのではないかと思える。だが、畳の上には加代子が頭を打ったときに流れ落ちた血の跡が残っている。全ての始まりは桜の巨木だったが、その巨木に取り憑き力を蓄えた源三郎が潜んでいるとは思いもしなかった。俺の記憶の奥に眠る闇がまんまと利用され、加代子まで巻き込んでしまったのだ。

 今まで霊体とか霊魂などはありそうだが、自分の生活には関係のない話と思っていた。しかし、これほど身近でありふれたことだと分かると世の中の見方が一変する。この世の中の主役は肉体を持つ人間なのか、それとも肉体を持たない霊体なのかどちらとも言えない。これほど世の中に霊体が当たり前のように動きまわり、人間に影響を与えているとは知らなかった。よほど用心しなければ知らない間に誰かに憑依され、自分では思いつかないような行動をするかもしれないのだ。そしてその行動の責任は肉体が受け持つ。霊体にとってこれほど好都合なことはない。救いは悪い霊体ばかりではないということだろう。

 携帯が鳴った。片岡さんからだ。
「よう、起きたか。これからのことだが、このまま引き下がるわけにはいかんだろう。真言天地流というのを少し調べてみたんだが、生半可な奴らじゃないね。全国に支部組織を持っていて本部は東京にあるらしい。公安警察に大学で同期の友人がいて調べてもらったんだ。オーム真理教事件以後、警察も新興宗教には敏感になっていて内偵を進めているらしい。今のところ目立った行動はないけど、加代子さんみたいに組織に取り込まれてしまう人が増えているらしい。家族からの捜索依頼で明らかになってきたそうだ。これじゃまるでオームみたいだよ。全ての生活を断ち切って宗教に身を投げ出しているそうだ。それにもう一つ分かったことがあって、大学にもかなり入り込んでいて、研究会的な名前のサークルを立ち上げて学生を取り込んでいるらしい。学生は真言天地流と知らずに活動に参加するケースが多いらしい。加代子さんの入っていたサークルも間違いなく真言天地流の下部組織だね」
 片岡さんはそこまで一気に話すと一息ついた。
「で、これからのことは合ってから話そう、美緒の家まで来てくれるかい」

 桜の巨木の横を通り美緒の家に行く。いつもの見慣れた光景だが、この辺りの樹木には誰かの霊体がいるに違いない。俺を見ている霊体もいるだろう。背筋の辺りに冷たいものを感じる。確か風門とか言っていた。霊体が出入りをする場所だ。
<入るんじゃねえぞ>
 心の中で強く念じつつ道を進む。強い意志を感じる肉体に入りにくいことは自分が霊体になったときに分かったことだ。不安や畏れを感じている肉体が一番入りやすく隙が多い。

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タグ:公安警察
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