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第1章19 [宇宙人になっちまった]

 浜辺の話にドクターは眉間に皺を寄せ目を閉じている。何度か首を左右に動かした。突き刺すような緊張感が室内に漂い誰も言葉を発しない。
「優秀な彼らがそんなことを言うなんて、研究には協力的でサードブレインは順調だった。それなのに、何が起きたんだ」
 後藤ドクターは絞り出すように言った。
「先生、僕らはどうすればいいんですか? 何か出来ることはありますか?」
 浜辺が訊いた。ドクターはしばらく黙って俯いていたが、口を真一文字に結び顔を上げて話し始めた。
「先ほど話した通り、一つは君たちの父親探しだ。肉親や親戚、近所の知り合いでも何でもいいから情報を集めて欲しい。二つ目は感覚を研ぎ澄まして、常にコブに意識を向けておいてもらいたい。まだ早いかも知れないがいずれ分かることだから話しておく。君たちのコブ、つまりサードブレインだ。行方不明の三年生と比べるとまだ未熟だが次第に能力の高まりを自覚できるようになるだろう。自分が無敵に思えるかも知れないが惑わされてはいけない。君たちの先輩はおそらくサードブレインに支配されてしまったのだろう。君たちも三人のように他の人間が下等な生き物に見えてくるかも知れないが、それはサードブレインの暴走だから従ってはだめだ。この先サードブレインがどんな力を獲得して何をする気なのかは未知数なんだ。それを知ることが出来るのは君たち以外にいない。繰り返すが、コブに意識を向け感覚を研ぎ澄まして欲しい。少しでも変わったことがあったらすぐに知らせてくれ」
 ドクターは話し終えると静かに腰を下ろしたが、幾分顔色が青ざめて見える。
「あの、私も先輩みたいになるんですか?」
 夢実が小さな声で尋ねた。
「そんなことにはならない、大丈夫だよ」
 ドクターは即座に応えたが、皆には気休めのように思えた。誰もサードブレインのことが分からないからだ。暴走に従うなと言われてもどうしていいか分からないし、そもそも自分の脳に従わないなんて矛盾だらけだ。後藤ドクターはざわつく不安感を払拭する言葉を見つけられないまま腰を下ろした。一番動揺しているのはドクターかも知れない。今日まで三人の異常性に気づくことが出来なかった。自分の管理下にあると思っていたのは幻想で、まんまと騙されていたのだ。

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