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第1章21 [宇宙人になっちまった]

「大丈夫よ、心配ないわ」
 夢実は小さな声で言うと窓に手をかけ大きく開けた。絵里子は夢実の服を掴んでいるが、その手は小さく震えている。
 円盤の中央辺りが明るく変化してきた。逃げ出したい気持ちと好奇心がせめぎ合い、かろうじてその場から逃げ出さずにいる。明るさが増し、眩しくなってきた。夢実は手で光を遮りながら見ている。光が僅かに揺れ動くと円盤の中から押し出されるように人間の形が見えてきた。小学生くらいの子どもに見える。明るく変化したところが元の銀色に戻ると、その小さな生き物は円盤の上を人間のように歩いてこちらに向かってくる。踏み出す足もとが小さく光り、歩行を誘導しているように見える。頭を少し低くして窓をくぐると夢実に手を伸ばし、夢実はその手を取ると身体を支えながら床に下ろした。
「ありがとう」
 小さな生き物は綺麗な日本語で話した。夢実はその手を握ったまま隣に片膝を付いてしゃがんだ。夢実の顔と小さな生き物の顔が同じ高さになり、微笑み合っている。若い親子のようだ。円盤から出てきた生き物とは思えない。もっと近寄りがたい宇宙人を想像していたのだ。敵意はこれっぽっちも感じられず見た瞬間から親近感を覚えてしまう。先ほどまで感じていた頭部の熱感も消えている。
 シルエットだけなら人間の子どもと変わらない。顔や手などの表面は薄いピンク色で、磨かれたような光沢を放っている。それ以外のところはふっくらした素材で覆われ、服を着ているように見える。まるで子どものぬいぐるみのようだ。かわいいと感じる要素が全て揃っていて、例えその手に恐ろしい武器を持っていたとしても誰も警戒しないだろう。

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