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第2章07 [宇宙人になっちまった]

 エフは驚く皆の顔を確認するように眺めた。
「もう少し、そうだね、八時間もしたらね、君たちのサードブレインは完成すると思う。そしたらね、周りの世界がね今までとは違って見えると思うんだ。さっき見つけた悪魔も思い出せると思う。だけどね、その時は平凡な顔を思い出すんじゃなくて、本当の姿を見ることになると思う。きっとびっくりすると思うから念の為に教えたからね。それとね、ネックレスがチクチクしたら近くに悪魔が来ていること忘れないでね。能力によっては見えるかも知れないからね。僕たちの連絡はね、テレパシーって言うのかな、思えば伝わるし、思えば僕は頭上にいるよ。それからね、サードブレインが完成したらいつでも簡単に円盤に乗れるようになるよ。気持ちを円盤に集中するだけさ。君たちはそんなの物理法則を無視してるとか言うけどね、君たちの知ってる物理法則なんて指で数字を数えてるようなものなんだよ。宇宙の法則はね、君たちの常識では想像することすら出来ないと思う。だけどね、分かってしまえば明快で単純なんだ。僕たちはね、この法則を利用できるようになったからこの星にいつでも来ることが出来るようになったんだ」
 エフが話し終えると円盤は病院に張り付くように止まっていた。
「またね」
 そう言ってエフはかわいらしく手を振り、促されるまま乗ったときと同じように窓から室内へ戻った。最後の女の子が降りると円盤はあっという間に雲の中に消えていった。誰も口を開かず、円盤が消えた方向を眺めている。その方向には旅客機や自衛隊の戦闘機、ヘリコプターが小さく見え、何事もなかったかのように飛行を続けている。いつもの平和な景色だ。
「全員いるかい?」
 後藤ドクターが声をかけると、誰もが夢から覚めた後のようにぼんやりした表情で周りを見た。
「先生、僕は円盤に乗っていたような気がします。僕だけじゃなくてこの部屋の全員一緒に乗ったんです。勿論先生もいました。これって夢じゃないですよね」
 浜辺は焦点の定まらない視線を皆に向けながら話した。
「私もよ、円盤に乗ったわ。地球が綺麗だった」
 絵里子が言うと、口々に自分も見たと話し始め、室内が急に賑やかになった。
「私は悪魔を見たわ」
 夢実は楽しげな会話を遮るように言った。全員が夢実に視線を向け、顔から笑顔が消えた。
「夢じゃないわ、地球も見たけど悪魔も見たのよ。みんな首に何をぶら下げているの、エフから貰ったでしょう。悪魔センサーよね。地球の話よりこっちの話が大事よ」
 夢実は首からぶら下げたネックレスを掴んで皆に見せた。
「思い出したわ、悪魔に狙われるのよね。ネックレスがチクチクしたら近くにいる証拠だって言ってた」
 絵里子が自分のネックレスを掴みながら言うと、皆も同じように自分のネックレスを掴んで確かめている。
「俺も持っている。夢でもないし、集団幻想なんてものでもない。全て実際に体験した事実に間違いないだろう。だとしたら今後のことをしっかり話しておく必要があるだろう」
 ドクターは一人一人確かめるように見ながら言った。そうすることで自分を落ち着かせようとしている。五十歳近いドクターですら相当困惑しているのだから、まだ十代の高校生の心中は想像に難くない。近くにいる女子と男子にお金を渡し、自販機で人数分の飲み物を買うように頼んだ。
 あっという間に狭い廊下に置かれた自販機の前に列が出来、頼まれた女子がお金を入れ、男子がボタンを押して並んだ生徒に渡す。雑談をすることもなく静かに列が動きやがてそれぞれの席に座った。おそらく話し始めれば堰を切ったように言葉が溢れだしてしまうだろう。誰もがそんな溢れそうな言葉の渦を胸に抱えながら、見かけは大人しく静かに座っている。

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