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第6章07 [宇宙人になっちまった]

「それでは薬の分析結果だが、驚くものだったよ。脳機能の一部を壊してしまうものだった。一九七五年まで日本でも行われていた精神科の治療でロボトミーという手術があったんだ。簡単に言えば脳の一部を切り取る手術で、爆発性の精神疾患のある患者に行うと従順で大人しくなる効果があったんだ。だが問題が多く廃止になったがね。つまり、この薬はロボトミー手術同様の効果を得るものだ。飲むと脳機能の一部、前頭前野辺りだね、様々な思考を司る部位が機能しなくなるんだ。そうなると無気力で従順、知的能力も低下して指示に従うだけの人間になってしまうんだ。どう思う、悪魔にして見ればこんな都合が良くて扱いやすい人間はいないだろう。簡単に乗っ取れるってわけさ。想い通りに動かして楽しめるだろう」
 ドクターはそこまで話すとペットボトルを口に運んだ。
「それじゃ、綾音は無気力な人間を作ってるってことですか?」
 浜辺が驚いた顔で訊いた。
「そうだ。綾音は自分の想い通りに動く若者を生み出しているんだと思う。無気力にしてから悪魔に乗っ取らせて、自由に操ろうと言う魂胆だ」
 ドクターは語気を強めた。
「死も怖れない命令通りに動いてくれる最強の軍隊じゃないですか!」
 浜辺は驚いたように言った。
「その通りだ。考えただけでもぞっとするよ。そんな奴らに襲われたくないね」
 ドクターの言葉は部屋にいる全員の背筋を凍らせた。リアルな話だ。
「まだある。芝浦智也の話は覚えているだろう? 例のお漏らし男だ。あいつが官房長官になったことだ。いくら若手の有望株でも有り得ない人事だよ。幼稚園児が小学校の先生になるようなものだね。それくらい有り得ないことだ。日本は綾音のおもちゃになったも同然だな」
 ドクターの言葉に希望を感じることができない。無力感すら感じてしまう。誰も黙り込んでしまった。
「僕らに何かできることはないんですか!」
 浜辺が立ち上がって叫んだ。
「君がもし綾音、いやキルケだとしたら何がしたい?」
「僕が、キルケなら……殺しです。それも大量殺戮です」
 浜辺の声が重く室内に響いた。
「……おそらく、そこら辺りだろう。綾音はその機会を待っているに違いない。だとしたら、何を狙っているのか調べてみよう。まずはそこからだ。手分けして情報を集めよう。綾音に関すること全てだ。官房長官の芝浦智也もだ。徹底的に調べるんだ。サードブレインなら簡単だろう。集めた情報は浜辺君と敬一君にに分析してもらおう」

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