SSブログ

退行催眠(7) [小説 < ブレインハッカー >]

おそろし  三島屋変調百物語事始  
おそろし 三島屋変調百物語事始 (単行本)
宮部 みゆき (著)

17歳のおちかは、川崎宿で旅籠を営む実家で起きたある事件をきっかけに、他人に心を閉ざした。いまは、江戸・神田三島町に叔父・伊兵衛が構える袋物屋「三島屋」に身を寄せ、黙々と働く日々を過ごしている。ある日伊兵衛は、いつも碁敵を迎える「黒白の間」におちかを呼ぶと、そこへ訪ねてくる人たちから「変わり百物語」を聞くように言いつけて出かけてしまう。そして彼らの不思議な話は、おちかの心を少しずつ、溶かし始めていく・・・。おちかを襲った事件とは? 連作長編時代小説。

あやし (角川文庫)

 あやし 宮部 みゆき (著)

  どうしたんだよ。震えてるじゃねえか。悪い夢でも見たのかい・・・・・・。月夜の晩の本当に恐い恐い、江戸ふしぎ噺――。著者渾身の奇談小説。

 

 

  

                         退行催眠(7)

「どんな意志があるというのですか」
 潮見の言葉は学者らしく、やや否定的なニュアンスに聞こえる。
「つまり、協調というのは全てを無駄なく調和させるような感じなんです。宇宙の意志というのは調和なんです。枝が風に吹かれて動くことさえも宇宙の意志なんです」
 伸也は話している自分に内心驚いていた。迷い無くすらすらと言葉が出て来るからだ。潮見は大きく息を出したり吐いたりしながら考えているようだったが、
「つまり、宇宙の意志という大きな存在があって、それと人間は今まで共存できていたが、今はそれが出来なくなったと言うことですね」
 と確かめるように訊いた。
「そうです。人間は支配することによって多くのことを生み出してきたのですが、その支配が修復不可能な段階に来てしまったのです。核ミサイルや自然破壊とは比べ物にならない程の力を身につけようとしているのです」

 潮見が何か言いかけようとすると、黙って聞いていた達夫が口を開いた。
「伸也さんの言われることは私にはよく理解できますね。私が怖れているのはそのことなんです。命あるものは、どこかで全て連携し合っているんです。決して別々に生きているのではないんです。一人の人間の呼吸は全ての生き物に影響を与えているんです。もちろんそんなことは実感としては分かりませんが、でもそれが真実なんです。だから恐ろしいんです。本当に一人の人間のイメージが全人類を滅ぼしてしまうこともあり得るんです。研究所はその恐ろしさを知らずに、実験を進めているんです。そして完成までわずかの段階まできているのですから」

「この石がそのことを知らせてくれたということですか」
 潮見の顔は納得できないように見える。
「おそらく……きっと伸也さんには分かっていると思います」
 と達夫は伸也を見ながら言った。
伸也は頷きながら、
「この石は完全な調和をもたらすことが出来ます。完全な破壊と完全な調和は、1人の人間の命に元々備わっている力ですから」
 と言うと暫く考えて、
「本当の力が分かるのは、完全なる破壊者と対峙したときかも知れません」とつけ足した。
「完全なる破壊者?」
 と潮見が訊くと、達夫が、
「浅草の男かも知れません、その破壊者は」
 と、伸也を見て、
「伸也さんにはまだ詳しく話していませんが、完全な破壊に結びつくような実験をしているところがあるんです。そこで進化した男が動き始めているんです。まだ完成はしていないようですが、もう時間の問題だと思います」

 黙って聞いていた伸也は、
「そうですか」
 と、何度もうなずきながら、
「これで役者が全部そろいましたね」
 と、みんなの顔を見回すようにしながら言った。
「それどういうこと、役者が揃ったなんて」
 と、由美が言うと、
「ようやく分かったよ、不思議としか言いようがないね。だって、ここにいるみんなはついこの前までは全く関係のない人生をそれぞれ生きていたんだよ。それがどういう訳か、今日ここに集まっているじゃない。何故みんなはここにいるの?」
 と、由美に問い返した。

「何故って言われても困るけど、九旗さんたちはその実験に関わってるんでしょう。そして酒呑童子の子孫かしら。私と伸也さんは童子の時代を生きた記憶を持っていて、それで潮見先生と知り合ってここに来たのよね………そう言われればそうね、確かにみんな繋がっているわ」
 と、確かめるように言った。

 

創作小説ランキングサイトに登録しました。よろしければ下記リンクをクリックお願いします。http://www.webstation.jp/syousetu/rank.cgi?mode=r_link&id=3967


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0