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悪夢(10) [小説<物体>]

                               悪夢(10)

「これは見覚えがあるでしょう」
 研究員はそう言うと部屋の隅に置いてあるベッドを指さした。見るとマーブル君が乗せてある。此処に持ち込んだ時よりも変化が進み、横に長く人間の身体に近くなりつつあった。シミュレーションには綺麗なマーブル模様は付いていないが、マーブル君の形と似ている。物体の形が出来上がると地下茎との繋がりは切れて、映像はそこで終わった。

「次も同じ酵素が発動した場合だが、遺伝的にコードされたアミノ酸が関与している」
 佐久間さんは機械的に言うと映像をスタートさせた。マーブル君が出来るのと大差は無く、同じように呼吸根から茎が伸びている。マーブル君とは違うような説明だったが、何も変わりはない。同じような物体になって終わった。佐久間さんは暫く黙って皆を見回すようにしていたが、
「最初の物体との違いを検証したが、唯一の違いは茎の本数と絡み方だけと思われる。これがどのように影響するのかは、今のところシミュレーションでは不明だ。おそらくどちらかがツリーチルドレンで残りがオロチだろう。まだパラメーターが不十分なのでこれ以上のシミュレーションは出来ない。工藤さんの乗って来られた車の窓にアメーバーの痕跡が微量付着していたので、採集して分析しているところだ。この情報が届けば何か分かるだろう。それからアミノ酸の関与はまだ幾つかの可能性を残している。関与するアミノ酸は数種類だろう。全てをシミュレーションして貰いたい。おそらく何かが出てくる筈だ。もしかしてだが、ホシに辿り着けるかも知れない。以上だ」

 そう言うと、もう一度皆を見回した。冷静そうな佐久間さんが少し昂ぶっているのが分かる。しかし、ホシに辿り着けるとはどういうことだろうか、隣の若い研究員に尋ねると、
「地球外生命のことです」
 とあっさり言った。研究員も佐久間さんと同じように昂ぶっているように見える。
「それって、どういうことですか?」
 俺にはまだ理解できない。
「つまりですね、シミュレーションで見た樹木の遺伝子の起源は地球外にあるということなんです。まだ仮説ですがね。分かりやすく言うと、宇宙人が、自らの遺伝子を作り替えて地球に持ち込んだと考えているんです。そうでなければあんな変化はあり得ないんです。酵素とアミノ酸の挙動を解明し制御すれば元の遺伝子、つまり宇宙人の遺伝子に辿り着けるということなんです。もし出来れば、この研究所で宇宙人を誕生させることだって出来るかも知れないんです。凄いことでしょう。今まで衛星探査やセチ計画などで地球外生命の研究がされてきたけど、今のところ何も得られていないんですよ、それが目の前で誕生させられるとしたら驚きじゃないですか」

 若い研究員は目を輝かせて言うと、自分の部署に戻っていった。その後ろ姿を見ながら<バカじゃないの>と声を浴びせたくなった。何も分かっていない。そんなことで喜んでいる場合ではないだろう。宇宙人だかなんだか知らないけど、今は俺たちの周りから生気が失せ、オロチとアメーバーが俺たちを狙っているのだ。此処でこうやっていられるのも、ツリーチルドレンが生気を呼び戻してくれているからなのだ。もっと他にやることがある筈だと思う。

 

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コメント 1

aosima0714

初めまして!
遊びに来ました!
良かったら私のブログに来てくださいね!
これから、ちょこちょこ遊びにきます!よろしくです<m(__)m>
by aosima0714 (2009-08-03 16:34) 

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