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第2章06 [宇宙人になっちまった]

 エフの声と同時に一人の男がズームアップするように大きく見えてきた。
「え、普通のおじさんでしょ、どこが悪魔なの?」
 夢実はがっかりしたように訊いた。
「間違いないよ、頭の中にいる。だから間違いなく人を殺す。それ以上のことは分からないんだ。でも顔を覚えててね」
 円盤はまた高度を上げて雑踏の上をゆっくり進み、すぐに二人の悪魔を見つけた。その度に顔を覚えてと言われるが、思い出そうとしても誰一人思い出せなかった。それほど特徴の無いどこにでもいるような顔だったのだ。
 恐ろしい姿形を想像していたが、見つけたのはその対極にある平凡で波風一つ起こせそうにない顔ばかりだった。エフはわざわざつまらない顔を見せるために円盤に乗せたのだろうか。
「まだ正体を現してないからちっとも恐くないよね。悪魔はね、脳を乗っ取る以外にもう一つ悪さをする方法があるんだ。凄い数の悪魔が集まるとね、ぼんやり姿が見えることがあるんだ。量子レベルの奴らだけど集まったときのエネルギーは相当なんだ。これを見てごらん」
 エフはそう言うと部屋の中央を指さした。最初は白くぼんやり光っていた空間が徐々に色を増してきた。透明感がなくなり赤と黒が斑に混じった中心部の形らしきものが見えてきた。その辺りから毒々しい色の触手がじわじわ伸びてくる。突然黒板を引っ掻くような音と同時に無数の触手が伸びて皆の身体に纏わり付いた。数人が悲鳴を上げ、何人かは後ろにのけぞり倒れたところで消えて無くなった。
「驚かせたね、悪魔のパターンシミュレーションなんだ。実際はこんなものじゃなくて、ターゲットが一番怖れる形に姿を変えるからね。本物を見ると心臓が止まっちゃうよ。恐い話はこれくらいにしておこうね」

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第2章07 [宇宙人になっちまった]

 エフは驚く皆の顔を確認するように眺めた。
「もう少し、そうだね、八時間もしたらね、君たちのサードブレインは完成すると思う。そしたらね、周りの世界がね今までとは違って見えると思うんだ。さっき見つけた悪魔も思い出せると思う。だけどね、その時は平凡な顔を思い出すんじゃなくて、本当の姿を見ることになると思う。きっとびっくりすると思うから念の為に教えたからね。それとね、ネックレスがチクチクしたら近くに悪魔が来ていること忘れないでね。能力によっては見えるかも知れないからね。僕たちの連絡はね、テレパシーって言うのかな、思えば伝わるし、思えば僕は頭上にいるよ。それからね、サードブレインが完成したらいつでも簡単に円盤に乗れるようになるよ。気持ちを円盤に集中するだけさ。君たちはそんなの物理法則を無視してるとか言うけどね、君たちの知ってる物理法則なんて指で数字を数えてるようなものなんだよ。宇宙の法則はね、君たちの常識では想像することすら出来ないと思う。だけどね、分かってしまえば明快で単純なんだ。僕たちはね、この法則を利用できるようになったからこの星にいつでも来ることが出来るようになったんだ」
 エフが話し終えると円盤は病院に張り付くように止まっていた。
「またね」
 そう言ってエフはかわいらしく手を振り、促されるまま乗ったときと同じように窓から室内へ戻った。最後の女の子が降りると円盤はあっという間に雲の中に消えていった。誰も口を開かず、円盤が消えた方向を眺めている。その方向には旅客機や自衛隊の戦闘機、ヘリコプターが小さく見え、何事もなかったかのように飛行を続けている。いつもの平和な景色だ。
「全員いるかい?」
 後藤ドクターが声をかけると、誰もが夢から覚めた後のようにぼんやりした表情で周りを見た。
「先生、僕は円盤に乗っていたような気がします。僕だけじゃなくてこの部屋の全員一緒に乗ったんです。勿論先生もいました。これって夢じゃないですよね」
 浜辺は焦点の定まらない視線を皆に向けながら話した。
「私もよ、円盤に乗ったわ。地球が綺麗だった」
 絵里子が言うと、口々に自分も見たと話し始め、室内が急に賑やかになった。
「私は悪魔を見たわ」
 夢実は楽しげな会話を遮るように言った。全員が夢実に視線を向け、顔から笑顔が消えた。
「夢じゃないわ、地球も見たけど悪魔も見たのよ。みんな首に何をぶら下げているの、エフから貰ったでしょう。悪魔センサーよね。地球の話よりこっちの話が大事よ」
 夢実は首からぶら下げたネックレスを掴んで皆に見せた。
「思い出したわ、悪魔に狙われるのよね。ネックレスがチクチクしたら近くにいる証拠だって言ってた」
 絵里子が自分のネックレスを掴みながら言うと、皆も同じように自分のネックレスを掴んで確かめている。
「俺も持っている。夢でもないし、集団幻想なんてものでもない。全て実際に体験した事実に間違いないだろう。だとしたら今後のことをしっかり話しておく必要があるだろう」
 ドクターは一人一人確かめるように見ながら言った。そうすることで自分を落ち着かせようとしている。五十歳近いドクターですら相当困惑しているのだから、まだ十代の高校生の心中は想像に難くない。近くにいる女子と男子にお金を渡し、自販機で人数分の飲み物を買うように頼んだ。
 あっという間に狭い廊下に置かれた自販機の前に列が出来、頼まれた女子がお金を入れ、男子がボタンを押して並んだ生徒に渡す。雑談をすることもなく静かに列が動きやがてそれぞれの席に座った。おそらく話し始めれば堰を切ったように言葉が溢れだしてしまうだろう。誰もがそんな溢れそうな言葉の渦を胸に抱えながら、見かけは大人しく静かに座っている。

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第2章08 [宇宙人になっちまった]

「飲んでくれ」
 ドクターは短く言うと無糖コーヒーを口に運んだ。僅かにコーヒーの香りが漂い、皆も同じように飲み始めた。相当口が渇いていたのだろう、ほとんど全員が一気に飲み干した。飲み干すと、大きく肩で息をしたり身体をほぐすように動かしたりして、やっと我に返ったようだ。
「とんでもないことになったな」
 ドクターはそれだけ言うと皆をゆっくり見た。誰も口を開かずドクターの次の言葉を待っている。
「この会は僕の特殊な患者を集めて組織したものだ。君たちはパラカスの頭蓋骨のように特殊な遺伝子を持っている。地球外由来の遺伝子だ。その謎がエフという宇宙人の登場で解けた。それどころか円盤に乗って地球を見て、悪魔が実際に存在することも知った。こんなこと誰に言っても信用されないと思う。言ってもいいがバカにされるだけだろう。だが大事なのはこれからどうするかだ。あと八時間ほどでサードブレインが完成することも重要だし、サードブレインが悪魔に狙われると言うことも忘れてはいけない。僕には医者という仕事があるし、君たちは高校生で学校がある。今までの生活を続けていくことは大切だ。だけど、エフが言ったことを信じるならそれだけでは済まないだろうと思う。僕にも正直なところどうしていいのか分からないのが本当のところだ。僕にサードブレインは無いし、他にも二人いる。だけどここにいる全員が同じ仲間として今後のことを相談したいと思っている。まずここからスタートしてはどうかと思う」
 誰も口を開かない。何が始まろうとしているのか分からず戸惑いだけが目の前にある。今まで信じてきた世界、見てきた世界がまるで別物のように思えるし、自分に未知の能力が備わり宇宙人になるというのだ。おまけに悪魔に狙われている。何をどう考えればいいのか未完成のサードブレインはなんの解答も与えてくれない。
「あの、エフはこの会に参加できると思いますか?」
 浜辺が小さな声で言った。
「テレパシーみたいに思えば伝わるってエフが言ってたけど本当かしら。私がやってみていいよね」
 夢実はそう言いながら眼を閉じ、肩を二回ほど上下に動かすと眼を開けた。

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第2章09 [宇宙人になっちまった]

「凄い! すぐに返事があったわ。いつでも参加オーケーだってさ。携帯より早くてびっくりだわ」
 夢実は嬉しそうに言った。
「それではエフを加えたここにいる全員参加でいいだろうか? まさかこんなことになるとは夢にも思わなかったよ。昼に病院近くのそば屋で飯食ったのが遙か遠い昔のことのようだよ。皆も同じだと思う。こんなことが現実にあるなんて、今まで俺は何を見てきたのかと思うよ。
 さて、それじゃ本題に入ろう。会の名前は今まで通り君たちの通称で、ユニコ会でいいね。それから会の目的だがね、今までは医療目的だったけどね、これからは違うだろう。行方不明の三人のことを考えても、第一の目的は君たちの安全だろう。悪魔に狙われてるからって誰も守ってくれないからね。自分たちで守るしかないだろう。二つ目は、エフの言葉に従えば悪魔退治? かな。攻撃は最大の防御って言うからね。逃げてばかりではいつまで経っても解決しないだろう。三つ目は、何かあるかな?」
 後藤ドクターはそこで言葉を切った。
「あの、僕たちの脳をもっと研究して、能力とか可能性とかを科学的に調べて欲しいと思います。それとエフに宇宙人になるって言われたことが心配です。僕は人間のままがいいんです」
 大人しそうな窪田という男子が言った。
「私もあります」
 夢実が絵里子に促されるように手を挙げた。
「あの、父親が同じってことが気になっていて、父探しもしたいです。だって私たち異母兄弟なんでしょう? 本当なのか知りたいです。異母兄弟ってもしかしたら恋愛タブーでしょ」 
 夢実が絵里子を見ながら言った。絵里子の関心事は恋愛関係のようだ。サードブレインが兄弟姉妹ならそうじゃない絵里子はここで有利に振る舞える。
「他に何かあるかな。無ければ脳研究と父親探しを加えて四つの目的で行動しよう。今までは月一回の定例会だったけど、それじゃ少ない。毎週ここに集まろう。とにかく連絡を密に取り合うことが安全のために必要だろう。それに、住所の近いもの同士で班を作ればもっと緊密に出来るだろう。仲間の少しの変化も見逃さないようにするためだ。三人の二の舞はごめんだからね。もし危険なことがあったらエフと仲間に伝えること。それにあと八時間で君たちのサードブレインは完成だったね。この次出会うときどうなっているか医者としては少々不安だが期待もしている。もし何か気になることがあったらいつでもいいから連絡してくれ」

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第2章10 第3章01 [宇宙人になっちまった]

 ドクターは話し終えると皆の表情を観察した。不安そうな表情を浮かべている者もいるが、大半は高揚した表情だ。悪魔を見たことよりも美しい地球を眺めたことが印象としては強かったのだろう。まだ誰もこの会の重要性に気づいていないし、自分がどんな存在なのかも理解してない。ドクターも予感めいた感覚は持っていても、この小さな集団の可能性と秘めた力を知らない。
 ドクターは他に意見のないことを確かめると、地域を四つのグループに分けた。どのグループも四人になり、リーダーを決め連絡方法など様々な情報を的確に共有できる体制を決めた。山谷敬一、風見陽介、安藤夢実、梅原絵里子は同じグループになり、浜辺青磁は隣の地域のグループになった。絵里子はがっかりした表情を夢実に見つかり、さりげなくなだめられた。これからは毎週出会えるのだからとポジティブに納得したようだ。絵里子の頭は今まで通り恋愛優位の脳細胞で変わりそうにない。一週間後の日曜日、同じ時間に浜辺とここで会えることが一番の楽しみになった。
      第三章
 山谷敬一はグループの三人と同じ駅を利用している。西口側が敬一と陽介、東口側は夢実と絵里子の生活エリアになる。このグループのリーダーは陽介で、早速四人でファミレスに寄って相談することにした。他のグループは全員がサードブレインだが、ここは二人がノーマルなのだ。その二人も陽介はネットにしか興味が無く、絵里子は恋愛が全てに優先する。
「誰か今日のこと撮った?」
 席に着くと待ちかねたように陽介が訊いた。だが期待したような返事はなく、互いに顔を見合わせるだけだ。
「誰も撮ってないのかぁ、あれば世界中に拡散チャンスなのに惜しい!」
「俺たちの会は撮影禁止でネットは絶対ダメだからな。俺たちの立場ってめっちゃ危険なんだぞ」
 敬一が陽介を睨みながら本気で注意すると、少し反省したようで静かになった。
「私たちあと数時間でサードブレインが完成するみたいだけど、何か感じる?」
 夢実が不安そうな顔で敬一に訊いた。

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第3章02 [宇宙人になっちまった]

「俺もそのこと考えてた。エフにもっと詳しく聞いておけば良かったよ。そうだ、訊けばいいんだよ、夢実さんもう一度訊いてくれる?」
 夢実もそのことに気がつき、すぐに目を閉じてエフに話しかけた。やはり肩を二度ほど上下させると眼を開けた。
「何も心配することないって。いつものように眠っていつものように目覚めたら完成らしいよ。私たちのサードブレインはエフと違って人間とのハーフだから自分にも分からないところがあるって言ってた。たいていのことはサードブレインが教えてくれるんだって。なんか、自分の頭の中にもう一人誰かがいるみたいな話だね」
 夢実は他人事のように言って笑った。
「二人とも別人になってたらどうしよう。コブがめっちゃ伸びてたりして」
 絵里子がふざけて言った。
「明日の朝、グループラインしようよ、コブ見せてあげる」
 夢実が言うと、スッピンは嫌だと絵里子がゴネたが、かわいいから大丈夫だとおだてられ納得した。
 あとは相談と言っても大した話はなく、ユニコ会とは別に四人だけで会う日を決めたくらいだ。今日一日でかなり親しくなったが、それは特殊な経験を共有したからで、お互いのことはまだまだ未知数だ。陽介は密かに夢実と絵里子を天秤にかけて品定めをしているようで、円盤より二人の天秤の方が重要らしい。彼らはどこにでもいる高校生で、特に目立つことも無くファミレスの隅で雑談に興じている。知らない人が見れば、何事も無かったかのようにまたねと言って帰ったとしか見えない。だけど彼らの体験したことは、月面に人類初の足跡を残したアームストロング船長と比べても遙かに大きく、人類史上最大の出来事だろう。なんと言っても地球外の知的生物と会話したのだ。まだ微生物でさえ確認されていないのにである。おまけに近所のコンビニに買い物にでも行くような気軽さで未確認飛行物体にまで乗ったのだ。そして彼らはその重大さに気づいていないのだ。地球の科学レベルを遙かに凌駕した知的生物が地球に飛来していることが知れたら世界中がパニックになるだろう。悪魔の存在が知れたらどうなるかは想像すら出来ない。
 ただし、彼らの話がすべて信用された場合に限る。おそらく一笑に付され、いつもの日常が続いていくだろう。日常を維持するには真実から目を背けることが最重要と言うことだ。いつの日か真実を知って、いままで自分が信じてきたものが儚い幻想だったと知るのだろう。現代の未熟で偏った科学技術は真実を知るためではなく、真実から目を背けさせる働きをしているに違いない。科学的という迷信を信じているからだ。

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第3章03 [宇宙人になっちまった]

 翌日の朝、敬一のスマホが耳障りな音を響かせている。思い出した。グループラインに違いない。半ば無意識に操作すると夢実の声が飛び込んできた。
「凄いよ、サードブレイン完成したみたい。そっちはどうなの?」
 夢実のはしゃいだ声が隣の部屋まで届きそうだ。
「エフは世界が違って見えるって言ってたけどね、それほどでもない感じ」
 敬一は眠い目を擦りながらスマホの画面を見ながら言った。
「どうしたその頭!」
 敬一は画面をもう一度覗き込むように眺めた。確かに夢実の顔に間違いないが、その上に真っ赤な頭が乗っている。
「ああ、これね、不思議なのよ、歯磨きしながら髪染めのこと考えてたらね、じわじわ色が付いてきたの。面白がって見てたら真っ赤になっちゃった」
 夢実はそう言いながら髪の毛を撫でている。
「サードブレインは髪まで染めるのかよ」
 敬一が呆れたように言うと、
「私の方が完成度高いみたいね、絵里子見てる?」
「見てるよ~今日から別人ね」
「学校行けねえぞ!」
 陽介が叫んだ。
「いいのよ、すぐ戻せるから」
 そう言うと、まるで手品でも見るように赤から元の色に戻った。
「夢実! 何がどうなったのよ、大丈夫?」
「大丈夫だと思うわ。エフは恐ろしい悪魔の顔を思い出すって言ったけど、全然なのよ、面白いことばかり、学校で話すね。敬一はどうなの?」
「まだ目が覚めたばかりだからね、何も起こらないよ。君とは違うかも。俺も悪魔は見なかったな」
「なんだよ、頭からビーム出るかと期待したのに」
 陽介が落胆したような声で言った。本気でビームでも出るかと思っていたのかも知れない。
エフの話は、まるでスーパーマンにでもなりそうに思えたからだ。
「がっかりするなよ、まだこれから何かあるかも知れないしね。そのうちビーム出してやるよ」
 夢実はサードブレインの変な片鱗を見せたけど、敬一は目立った変化は無いようだ。エフの言うように、人類とのハーフだから予想とはかなり違うのかも知れない。しかし、いずれにしても悪魔は着々と破滅に向かって準備をしているのかも知れない。それを知るのは未知の宇宙人エフと、この頼りない高校生たちなのだ。朝の短時間で様子は少し分かったが、物足りない感じだ。時間が経つと他の変化もあるかも知れない。学校が終わったら桜ヶ丘公園で会うことになった。

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第3章04 [宇宙人になっちまった]

 桜ヶ丘公園はその名の通り、様々な種類の桜の多いことで有名だ。すでに花は散り鮮やかな緑が若々しい。敬一と陽介は早く公園に着き、エフの話を思い出した。エフを思えばいつでも頭上に居て、乗ることも簡単だと言っていた。その時はそんなものかとスルーしてしまったが、試したくなった。冷静に考えるとそんなことは無理だろうと思うからだ。
 敬一が目を閉じると陽介は黙って空を見上げた。よく晴れた空に太陽が西に傾きかけている。所々に雲が斑に浮かんでいる。もしかしたらその雲の隙間に円盤が居ないかと細心の注意を払いながら見つめている。
「どこにもいないね、エフの言うこと信用できないな。それとも俺に見えないだけ?」
 陽介は空を見上げながら訊いた。
「そうだね、もう真上に居るよ」
「嘘だろ、何にも見えないよ。サードブレインにだけ見えるんだ。じゃぁ、本当に乗れたりするの? 勿論二人一緒にね」
 敬一の顔を見ようと視線を空から下に動かしたとき、地面が少し揺れた。地震かと思ったら、見覚えのある部屋の中に居て目の前にエフが笑顔で立っている。
「嘘じゃ無かったでしょ、僕はいつでもどこにでも居るんだ」
「どうやったの? 一瞬だったよ、有り得ない」
 陽介は興奮気味に言った。
「敬一は分かるよね、陽介はちょっと無理かな。サードブレインなら簡単な理屈なんだ。ドアを開けて普通に入るのと同じなんだけどなぁ」
 エフは二人を交互に見ながら残念そうに言った。
「俺にもよくわかんないよ。ここへ来るまで悪魔も見なかったし、大して変わってないんだけど、本当に完成しているの?」
「間違いないよ。完成しているけどね、なぜかなぁ、起動に時間かかってるかも知れないね」
「それじゃ、俺のパソコンと同じだよ」
 陽介は困ったように言った。
「頭がクリアーになった感じはないし、何かの能力が身についた感じも無いし、円盤は見えたけど、要は大して変わってないってことかな」
 敬一は少々残念そうに言った。
「ううん、おかしいなぁ、絶対変わってるはずだよ。まだ気づいていないだけだと思う」
 エフはそう言うと地上を指さした。

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第3章05 [宇宙人になっちまった]

「来たね」
 エフが言うと同時に目の前に夢実と絵里子が現れた。
「やっぱりここに来てたのね、でもここなら話が早いわ。エフに訊きたいこともたくさんあるしね」
 夢実はそう言って話し始めた。
「もう大変だったんだからね、朝から髪の毛の色も変わるし、でもそれはいいのよ、すぐに戻ったからね。大変だったのは学校へ行ってからよ、絵里子だって大変だったんだからね」
 そう言うと、絵里子が待ちかねたように話し出した。
「まだ一時限目が始まる前よ、夢実が屋上に悪魔がいるって私に言うの。私には女の子しか見えなかったけど、夢実の言うこと信じてその屋上に行ったのよ。かわいい子よ。でも顔からは想像できない、恐怖と絶望しか見えない目をしてたの。死のうとしている目よ。私まで引きずり込まれそうだった。もし夢実がいなかったら私も一緒に飛び降りてたかも知れない」
 絵里子はそこまで話すと肩で大きく息を吸い、夢実が話を続けた。
「見えたの、女の子と重なるように黒い影が。昨日ここで見せてくれた悪魔に似てたわ。その赤黒い塊が女の子の身体と重なってね、あの気味悪い触手が何本も身体に纏わり付いていた。顔は恐怖で歪み、恐怖で怯える目の奥に悪魔が見えたわ。目が合ったとき私の足はすくんで動けなくなったの。その次の瞬間よ、私の口から妙な声が出たの。何かの言葉だったかも知れないけど自分の意思じゃないわ。もう一人の自分がいるみたいだった。そしたらね、女の子の目から悪魔が消えたわ。ぽろぽろ涙を落としながら私に抱きついてしばらく泣いていた。話を聞いたらね、急に屋上から飛び降りそうになったんだって。やっちゃいけないって思うんだけど、身体は言うこと聞かなくてフェンスを乗り越えてしまってね、もう少しで飛び降りるところだったって」
 夢実は大きく息を吐いた。
「ここへ来る途中にも悪魔と重なるように歩いている人がいたんだって」
 夢実のかわりに絵里子が言った。夢実は悪魔の話をするだけでも疲れるらしい。
「二人見たけどね、屋上で見たような気味悪い触手は見えなかった。あれをオーラって言うのならね、真っ黒なオーラだった。思い出すだけでも嫌だわ」
 夢実はそれだけ言うと口を歪めた。

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第3章06 [宇宙人になっちまった]

「夢実さんは悪魔が見えたんだね。悪魔を追い払った声は特殊な周波数の振動波だと思う。僕には出せない種類だよ。多分だけどね、黒く見えるほど集まったってことは相当数の悪魔が量子レベルで集合していてさ、それを繋ぎ止めている鎖のようなネットワークをバラバラにしたんだろうね。ほとんどの物体は何かに共鳴するからね、量子レベルでも同じってことだよ。追い払えるなんて凄いよ」
 エフは目を丸くして言った。
「私は嫌だわ、悪魔なんて二度と見たくない。背中がゾクゾクして身体が凍り付きそうだった。こんなに見るなんてホントにどこにでもいるのね。ああ嫌だ」
 夢実はそう言って身震いした。
「ところでネックレスはチクチクしたの?」
 陽介が訊いた。
「そう言えばチクチクしなかったわ。夢実が気がついたからね。まるで意思があるみたい」
 絵里子はネックレスを手で握りながら言った。
「敬一君は見なかったの、悪魔の奴」
 夢実が心配そうに訊いた。
「何にも見えないし、感じないし。俺のサードブレインはポンコツかなぁ。これじゃあっという間に悪魔に乗っ取られそうだよ」
「そうだね、サードブレインは悪魔の大好物だからね、しばらく気を付けた方がいい。夢実さんと一緒にいると安全だし、刺激を受けて目覚めると思う。後もう少しかなぁ」
 エフはそう言って一緒にいるよう勧めた。
「それじゃ今日は円盤の中で過ごすの?」
 夢実は口を尖らせながら言った。
「円盤の中を案内するよ。見た目は小さいけどね、何でもあるんだ。僕はここでね、君たちの数だと二百年って言うのかなぁ。それくらい過ごしたよ。今まで何度もこの星はヤバくなったけど、今が一番ヤバいよね。悪魔の数が驚くほど増えてきたんだ。昔はこんなにいなかったんだけど」
 エフは独り言のように話しながら隣の部屋を見せてくれた。ドアのような出入り口は見当たらず、壁に吸い込まれるように中に入ることが出来た。だからどこに入り口があるか見た目では分からない。床はどこも柔らかく、どこでも横になって眠れそうだ。
「君たちだとここはキッチンって言うのかな。エネルギーを満タンにするんだ」
 エフに言われて室内を見廻したがキッチンらしきものは何も見当たらない。
「何を食べてるの?」
 絵里子が訊くと、
「食べるって言うのかなぁ、宇宙線を浴びるだけでいいんだ。しばらくここにいればそれでオーケー。君たちにみたいに味がどうのとかないからとても簡単。羨ましい? 君たちも早く進化すればいいのにね」

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