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第3章13 [宇宙人になっちまった]

「陽介、あの服着たままよ!」
 絵里子が言った。艶やかなパールホワイトの全身タイツ男は、仲間と一緒でなければ通報されるレベルだ。
「脱ぐ前にちょっと試していいか?」
 陽介は急に飛び跳ねたりダッシュしてみたり怪しげな動きを始めた。近くを歩いていたカップルが端に寄って早足で通り過ぎ、俺たちまで変人のように見られている。
「予想以上だ!」
 陽介はそう言いながらジャンプを高く跳び始めた。その高さは二メートルを超え、もはや異常だ。敬一は跳ぶのを止めさせると、余り目立つことはするなと注意した。悪魔の奴らが和歌山にいたとしても安全とは言えない。もし誰かが飛び跳ねてる様子を撮ってネットに晒したらどうなるか分からない。瞬く間に世界中の人に知られるからだ。悪魔は肉体を持たないが、量子ネットワークの中に高度な知性を持っている。その存在方法が果たして生命と言えるのか分からないが、明確な意思と目的を持ち、殺しを純粋に楽しんでいるという。そして奴らにとってサードブレインが邪魔であるのは確かなようだ。敬一は目に見えない悪魔の存在を考えると不安で仕方ないが、陽介はサードブレインをスーマーマンのように思い、今まで以上にお気楽に見える。円盤に乗り、パワースーツまで貰い、まるではしゃいでいる子どもと同じだ。
 気がつけば辺りは薄暗く、街灯の明かりが通路を照らし始めていた。陽介は木陰に隠れてパワースーツを脱いできた。
「脱いだら身体が重い、重力って面倒だよ。悪魔の気持ち分かるな。でもさ、エフはいつも着ていろと言ってたから高校にも着ていくだろう」
 陽介はそれが当たり前のように言った。
「まぁ、そうだね。これからは何があるか分からないからね。用心した方がいい。夢実も絵里子もだよ」
 敬一は念を押すように言った。駅までは歩いて二十分ほどの距離だが、今までのようにのんびり歩けなくなっていることに気付いた。
「今のところ悪魔らしいのは見かけないよね」
 絵里子がキョロキョロしながら訊いた。木陰とか、街灯の届かないところに誰かが潜んでいそうに思えるのだろう。
「大丈夫そうだね、人通りもあるし」
 敬一が言った。
「でもさ、悪魔に乗っ取られた人間が近くに来たって分からないよね。どうすればいいの? 今すれ違った人の中にいたかも知れないよね。エクソシストみたいな悪魔顔ならいいけどさ、円盤で見つけた悪魔なんか普通のオヤジだよ。あんなのに豹変されたらもう終わりよ、打つ手無しね」
 夢実は敬一の後ろを用心深く歩きながら言った。絵里子と同じで話しながらキョロキョロしていて落ち着きが無い。四人も高校生が歩いていながら誰も携帯を手にしていないし、用心の仕方が度を超している。むしろこの四人の方が不審者のようだ。
 東京の夜は夜中に女の子が一人で歩いても安全な街だと思っていたし、実際夜中でも怖いと思ったことは無い。それなのに今日は友達と歩いていても不安で仕方がないのだ。夢実は明日から必ずパワースーツを着ようと思ったし、昼間でも絵里子といようと思った。
 駅前で四人は別れたが、連絡は密にすることを約束した。朝と昼と夜は基本で、それ以外でも変わったことがあればすぐに連絡して、パワースーツは必ず着用することも確認し合った。次に四人が顔を合わせるのは日曜日の午後で、駅で待ち合わせて行くことになった。

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