SSブログ

第4章01 [宇宙人になっちまった]

       第四章
 桜ヶ丘駅前のロータリーに三人は集合時間よりも早く集まり夢実を待っている。前回別れたときよりも表情が幾分柔らかくなっているようだ。約束したよりも相当多く連絡を取り合い、ちょっとでも異変らしきことを見つけると緊急速報レベルで知らせてくる。最初の二日ほどはそんな感じで、連絡が入るたびに緊張していた。しかも一言目は、「大変!」だった。さすがに三日目くらいになると、一度も悪魔に遭遇することが無かったせいなのか、「今度はなあに?」と気が緩んできた。パワースーツを身に纏っている安心感もあるのだろう。着慣れてくると思った以上に優れた性能だと分かってきた。おっちょこちょいで時々転んで膝を擦りむいたりしている絵里子はスーツのおかげで火傷をせずにすんだのだ。弟がふざけてこぼした熱湯を間一髪で避け、母も弟も目を丸くしてしばらく声も出なかった。絵里子の運動神経では逆立ちしても出来ない動きを見せたのだ。でも一番驚いたのは絵里子で、筋肉を痛めそうな動きもそうだが、まさかスーツがそんな種類の危険を察知するとは思ってもいなかった。まだまだこのスーツは未知数のようだ。
「みんな早いわね」
 最後にやって来た夢実が声をかけた。
「落ち着かないのよ、やっぱり四人一緒にいるのがいいわ」
 絵里子はそう言いながら夢実の腕を掴んだ。日曜の午後の駅前は買い物などで行き交う人たちで混雑しているが、いつも通りで変わったところは見当たらない。ネックレスにも反応は無く、黒い影も見えない。夢実はそうやって身の回りを観察するのが習性のようになってしまっている。学校でも注意していたが、あれ以来見ていない。だけど一度でも見てしまうと、ただの日陰でも身体がビクンと反応して自分でも驚くことがある。もしかしたら自分の心が過剰にスーツを反応させているのかも知れない。
 定刻に電車は動き出し、定刻に到着する。日本では当然の日常だが、悪魔の存在を知ってしまうとそれさえも疑わしく思えたりする。運転士の腕一本に多数の乗客の命が委ねられているのだ。飛行機もそうだし、高速バスも同じだ。乗り物に限らず、一人の人間の腕一本に他人の命が委ねられていることは多くある。その一人が悪魔に乗っ取られたらどれほど酷いことになるのか考えるだけでも怖ろしい。夢実は今までそんなことは思ったことも無い。当然のこととして運転士を信用していたからだ。今は先頭車両に乗り、運転士の後ろ姿をそれとなく観察している。他の三人も同じで、自然に先頭車両に乗り込んで一番前に場所を確保したのだ。雑談はしていても、誰かが無意識に運転士や前方を注意している。勿論、何事も無く電車を降りて病院に向かうが、どこにいても油断できない日常にはまだ慣れない。

nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ: