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ブレインハッカー 第8章 生き霊(1) [小説 < ブレインハッカー >]

バーバラ・ハリスの「臨死体験」 
バーバラ・ハリスの「臨死体験」 (単行本)
バーバラ ハリス (著), ライオネル・C. バスコム (著), Barbara Harris (原著), Lionel C. Bascom (原著), 立花 隆 (翻訳)
立花隆さんの翻訳ですが、臨死体験については、自身の著作もあります。
 
              ブレインハッカー 第8章 生き霊(1)
 達夫と竜太郎が東京に戻った翌日も、伸也は由美と昭彦と共に浅草を歩き回ったが、それらしい男を見つけられないでいた。もう四日目になるが村木のところにもそれらしい情報はなく、気味の悪い男の動きは陰をひそめ、それらしい事件も起こらなかった。浅草の街は平和でいつのも賑わいが続いている。
 川沿いで簡易ハウス暮らしをする人たちも、仲間内で起きた殺人事件のことは忘れたかのように、思い思いに自分たちの生活を営んでいる。誰に聞いてもそんな男はみかけないという返事が返ってくる。伸也はどんな男なのか見極めてやろうと思っていたが、自分たちが一人相撲をしている滑稽なピエロのように思えた。だが昭彦はむしろ警戒感を高め、今まで以上に注意深く周囲を観察しているように見える。伸也が何か話し掛けても、そっけない返事が返ってくるだけで、次第に無口になってきた。
 昭彦の感覚は何かが起き始めようとしていることを察知しているのだろうか。言いようのない不安感が伝わってくる。伸也も何かが忍び寄っていることを感じ始めていた。
「伸也君も感じるだろう、この嫌な感じを。今まで奴らの目を誤魔化し姿を隠すことが出来たのはこの嫌な感じを避けてきたからなんだ。でも今感じているのは今までとは全く違った身震いするような感じだよ。背筋が震えたりお腹がピクピク痙攣したりするね。髪の毛が逆立つような感じもある」
 そう言いながら、昭彦は絶えず視線を動かしていた。伸也も一層注意深く周囲を観察したが何一つ不審なことは無かった。
 昭彦は疲れたと言って二人を喫茶店に誘い、席に座ると静かに目を閉じた。
「心に不安を感じたときは、いつもこうして自分の奥深くから送られてくるメッセージに耳を傾けるようにするんです。ちょっと手を握ってもいいですか」
と二人の手を握ると、伸也にも由美の手を握るように促した。
「しばらく目を閉じて何も考えないようにして下さい」
 隣のテーブルから、嘲笑するような声が聞こえるが、無視して言われるままに目を閉じていた。周りの雑音が次第に遠のくと、閉じた瞳の視界に白い靄がかかったようになり、その白い靄がだんだん薄れると人影が見えてきた。伸也はその姿を見極めようと焦点を合わせるとその姿がはっきりと見えてきた。
 今まで見たこともない鎧武者が立っている。徐々に姿が大きくなり近づいてくるように感じる。これは現実ではないと分かっているが感じる恐怖感は本物だった。逃げたいと思った瞬間、武者は血相を変えて斬りかかってきた。耐えきれず目を開けると由美も昭彦も目を開けていた。同じ幻覚を見ていたのだ。三人とも汗ばんだ手を離すとコップの水を飲み干した。
「一体なんですか、今のは」
 と大きく息を吐きながら伸也が聞いた。
「私が今日ずっと感じていたものの正体でしょう。昔風に言うと生き霊みたいなものです。これは恐ろしい相手ですよ」
「生き霊?」
「私達に向けられた殺意や憎悪みたいなものですね、きっと探しているあの男でしょう。私が弱ければ恐怖心に駆られてどうなっていたか分かりません」
「あの、ホームレス殺人事件のように?」
「そうです。おそらくそれが狙いだと思います。」
「それじゃ近くにいるの、その男が」
 と、由美は店内から外に視線を向けた。
「見える範囲ではないと思いますが、でもそれほど遠くはないでしょう」
 と、昭彦は応えた。
「どうしますか」
 と伸也が聞くと、昭彦は、
「相手の精神的なエネルギーは相当のようですが、分かれば慌てることはありません。今のところこれ以上の力は無いようですね。伸也君はこのエネルギーを感じますか?」
 と言った。
しばらく考え込むようにしていた伸也は顔を上げると、
「手を繋いだときほどはっきりとは感じませんが、確かに胸騒ぎのような違和感を感じますね」
「その感じなんです。それが突然大きくなって心臓がバクバクしますから注意して下さい。そうなると心を支配されてしまって、衝動的になったりしますから」
「昭彦さんにも出来るんですか」
 と由美が聞いた。
「童子の修練である程度出来ますが、兄はもっと凄いです。実験の話聞いたでしょう、相手の細胞に自殺をさせてしまいますから」
「この相手は出来ないんですか」
 と由美が不安げに聞いた。
「まだ出来ないでしょう、その前に何とかしたいんです」
 昭彦はそう言うとコーヒーに口をつけ暫く考えていた。
思いついたように顔を上げると、
「伸也さんは確か体外離脱のようなことが出来ると言ってましたね。この男のエネルギーを辿れば何か分かりませんか?」
 と聞いた。
伸也は、
「うーん」
 と声を出すと黙り込んでしまったが、横から由美が何かを発見したように言った。
「ねぇ、私思ったんだけど、伸也さんが私の部屋に来ることが出来たのは、私の何かを感じたからじゃないかしら。私が伸也さんのことを考えていたから……そうよ、あのときは伊蔵さんを思っていたんだわ。その気持ちを辿って私の部屋に来たんじゃないの?………そうだとしたら、この男の気持ちを辿ることも出来るかも知れないわ。ねぇ、やってみたらどうかしら」
 伸也はしばらく考えてから、ゆっくり顔を上げると、
「わかった、やってみよう。出来るかもしれないね」
 とコーヒーを飲み干した。
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NO NAME

この人の本はどうでしょう?
「元無神論者大学教授「黄泉~天国への臨死体験を語る パート1」
www.youtube.com/watch?v=res1ZJ07BoA
by NO NAME (2015-08-08 09:17) 

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