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第2章16 [メロディー・ガルドーに誘われて]


 久しぶりのカズの家は、前回来たときと同じように、時代に取り残された古き良き時代の風格を醸し出している。そして紗羅も前回と何一つ変わらない振る舞いを見せてカズの家に入っていった。紗羅はキッチンに直行し、カズはアンプの電源を入れた。いつものルーティーンなのだろう。年季の入ったテーブルにビールが並ぶと、暖まった真空管が働き始め、サックスの気怠そうな音が鼓膜を揺らし始めた。
「とりあえずツナ缶ね」
 紗羅はそう言うと手際よくガラス製の器に移した。
「俺はシャワーだな」
 カズはそれだけ言うと廊下の奥に消え、祐介はキッチンに立つ紗羅の後ろ姿を眺めながら冷えたビールを喉に流し込んだ。ここで飲んでいるのは夢の中の自分のような気がしてまだ信じられない。ビザールもそうだが、このリビングも居心地が良すぎるのだ。自分は社交的ではないし、どちらかと言えば人との関わりは苦手な方なのにまるで自分の部屋のように振る舞えている。紗羅とカズの魔法にまんまと引っかかったか、それとも紗羅とカズが俺の中にある何かを呼び覚ましてしまったのだろうか。祐介は今まで自分が他人に感じていた距離感がどこに消えてしまったのだろうかと不思議で仕方がない。距離が近いとかじゃなくて、重なってしまうのだ。そしてそれが心地よいのだ。突然UFOの記憶を思い出したのはこの心地よさと関係があるような気がしている。
「どうしたの、静かね」
 紗羅が冷や奴をテーブルに乗せ、サックスの音色は祐介の心の奥にまで忍び込んだ。
「不思議だなって思ってた」
「何が不思議なのかな~」
 紗羅は祐介の目を悪戯っぽく覗き込みながら訊いた。
「紗羅という名前の謎の女」
 祐介も紗羅の目を覗き込みながら言った。
「その女は宇宙人よ。気をつけた方がいいわ。きっと地球の男を騙そうと思ってる」
 紗羅が言うと、
「宇宙人の女なら喜んで騙されるよ、宇宙人に騙された地球人第一号だ」
 と祐介は笑った。
「考えたら不思議なことばかりだわ。祐介さんだって不思議の塊よ。不思議だなって思わない方が不思議だと思わない? だって、世の中不思議なことだらけなのに、みんな平気な顔して暮らしてる。私はそれが不思議だわ」
 紗羅は祐介のコップにビールを注いだ。
「そうだね、何から何まで不思議だよ。でも一番不思議なのは、今ここでビールを旨そうに飲んでいることかな」
 そう言うと祐介はビールを喉に流し込んだ。
「私の一番は勿論UFOだわ。不思議が溢れてくるの」
 紗羅はそう言うと、冷や奴を口に入れた。
「沙羅さんのUFO体験をもっと聞かしてくれない?」
 祐介が訊くと、紗羅は箸を置いて天井を見上げた。

タグ:UFO
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