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第3章6 [メロディー・ガルドーに誘われて]


 希良は話し終えると目を閉じた。わずかに微笑んでいるようで幸せそうに見える。カズはその表情を見ながら首を左右に動かし、つられるように微笑んだ。
「完璧な静寂って、どんなかしら」
 紗羅が言うと、希良が目を開けた。
「うまく言えないけど、空間に溶け込む感じというか、空間と自分の区別がなくて、それは頭の中も一緒なのよ。昔ね、高校の禅寺合宿で座禅を組んで心を無にするとか言われたけど、思えば思うほど頭の中は騒がしくなったわ。でもそれがちっともないの。頭の中も宇宙に溶け込んだみたいでシンと静まってるの。そう、自分が宇宙そのものだった。それが完璧な静寂だったわ。でも、これは実体験する以外理解できないと思う」
 希良はそう言うとコーヒーを口に運んだ。
「UFOに乗った話を聞いているはずだけど、なんだか哲学とか宗教とかの話を聞いているみたいね」                                         紗羅も同じようにコーヒーを口に運んだ。
「で、その後は?」
 カズが訊いた。
「それだけなの、気がついたら屋上に一人で立ってた。もう日が暮れてたからね、一時間は過ぎてた。でもあの空間にいたら時間なんて関係ないってわかった。例えばね、一秒と千年はイコールなの」
「俺たちの聞いている話はとんでもなく凄い話なんだけど、でもそんな気がしないんだよね、なんか特別感がないね」
 カズはそう言って笑うと、
「マイルスのレコードはUFOに乗った後に聴いたの?」
と訊いた。
「私は満ち足りた気持ちで部屋に戻ってぼんやりしていました。ぼんやりしているように見えても私は幸福感に満たされて、もう何も要らないって気持ちでソファーに座っていました。そんな私を見た父がこのレコードをかけてくれたんです。もしかしたら父は私が何か思い詰めているように見えたのかも知れませんね。でも凄くフィットしたんです」
 そう言って希良は笑った。

タグ:UFO
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