SSブログ

第7章11 [宇宙人になっちまった]

「円盤でね、何度もシミュレーションしたんだ。間に合ったよ。君は嘘の天才だね、このまま騙されるところだったよ」
 エフはキルケの前で話し、夢実は敬一に走り寄った。
「敬一! 敬一!」
 夢実は敬一を抱き起こすと何度も名前を呼んだ。
「敬一は大丈夫だと思うよ」
 エフは敬一を見ると微笑みながら言った。たくさんの仲間が周りに集まり、敬一を見つめている。
「生きてる!」
 夢実の声だ。敬一の目頭が小さく動き、指先が少し動いた。夢実が名前を呼ぶと、目を開いて小さく頷いた。敬一は仲間の顔を見廻すと、夢実に助けられながら身体を起こした。
「僕も……わかったよ。死にかけたけどね」
 敬一はキルケを睨みながら言った。
「死に損ないの虫けらに何がわかるって言うのよ」
 キルケは後ろに下がりながら言った。声が少し震えている。
「お前はキルケじゃない、偽物だろ。さっさと消えろ!」 
 敬一は夢実の肩を借りて立ち上がると、キルケを指さして言った。みるみるキルケの顔が崩れ、傲慢で自信に満ちた顔は見る影もなくなった。職員がライトを正面から当てると後頭部から黒い塊がユラユラと立ち上り、そのまま気を失って倒れた。
「綾音はダミーで操り人形だったね、本当のキルケはここのどこかに隠れているよ」
 エフが部屋の奥の方を見ながら言った。
「隠れてないで出てこい、弱虫キルケ!」
 敬一の声が部屋の奥まで響き、強力なライトが部屋の隅々まで舐めるように照らした。隅の方に数人の男が固まるように立っている。ほとんどが老人だ。名前はわからないが、テレビで見慣れた顔もいる。おそらくどの顔も日本の中枢を牛耳る奴らに違いない。
「みんなキルケの下僕だけど、このなかにキルケが紛れている。綾音はキルケの代役ってことさ。上手く使われたよ。本物のキルケは死にかけの年寄りさ」
 エフは歩きながら一人一人をゆっくり見た。芝浦智也が膝を震わせて立ち、その後ろに鎌田重蔵がいる。エフは鎌田を見上げると、小さな足で鎌田の膝を蹴った。
「見つけた!」
 エフが鎌田の顔を指さすと、身体の輪郭が揺れ始めた。黒い触手を伸ばすつもりだろうか。だがそれ以上何も起きない。
「諦めた方がいいよ。なんの力のない癖に、あるように見せかけるだけだね。もう幻覚に騙されたりしない。悪魔の正体は幻覚ってことだね、見抜かれたらおしまいなんだ。しぼんでしまうだけさ。手品と同じだね、タネがバレたら色褪せるよ」
 エフは得意気に言った。
「悪魔を舐めると後悔するぞ」
 キルケは両手を広げて口を大きく開けて見せた。身体の輪郭が小さく揺れているが、それ以上何も起こらない。
「ハッハッハッ、面白いよ!」
 エフはお腹を抱えて笑っている。キルケはそれ以上に両手を大きく広げ、顎が外れそうなほど大きく口を開けて唸り声を出し始めた。キルケは恐ろしい怪物でも見せているつもりなのだろう。一度醒めた夢は二度と見ない。キルケが量子悪魔をどれほど集めても、敬一やエフの頭を乗っ取ることはできない。悪魔の本当の姿は滑稽で弱虫で残忍なのだ。
「もう飽きたからいいよ」
 エフが言うと、キルケは両手を降ろすと肩で大きく息をした。
「どうしてだ! 誰も怯えて逃げ出すのに、何をした!」
 鎌田重蔵は息を切らしながら訊いた。
「何もしないよ、サードブレインがちょっとだけ頭が良かっただけだよ。いつまでも幻覚に騙されたりしない」
 エフは静かに言った。

nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:

第7章12 [宇宙人になっちまった]

「人間はバカなのに。サードブレインさえいなければ……」
 鎌田重蔵はそう言うと床に座り込んだ。
「ワシも終わりってことだな、もう十分だ。楽しませてもらった。戦争とか公害とかね、たくさん苦しめて殺してやった。最後の仕上げに一千万人くらい殺そうかと思ったがね、邪魔が入ったのは想定外だった。もう年だからどっちみち長くはない。また生まれ変わればたくさん殺しを楽しめるだろうよ。死ぬのが楽しみだな」
 鎌田重蔵はそう言って笑った。
「悪魔って相当バカなんだね、悪魔の生まれ変わりって見たことないよ。悪魔は最後の形態だから後がないんだ。もう一度新しい命で蘇るなんて無理だよ、ハッハッハッ」  
 エフはまたお腹を抱えて笑った。
「ワシの殺した命は循環しているはずだ」
 鎌田重蔵はムキになって言った。
「そうだよ、命の循環は宇宙の真理だからね。でも君は違うよ。例えて言えばね、命の色がだんだん黒ずんでね、とうとう真っ黒になって生まれてくるんだ。それが君、悪魔だね。最後の形態さ。真っ黒になって生まれた命は二度と循環しないのが法則さ。命が終われば永遠に苦しみ続けるよ。苦しみに終わりがないんだ」
 エフは鎌田重蔵の瞳の奥を覗き込みながら言った。
「違う! 嘘を言うな!」
 鎌田重蔵は顔を引きつらせた。
「嘘か真実か、自分が一番よくわかるよ」
 エフが言うと、鎌田重蔵は首を横に振った。
「小僧のくせに、生意気なことを言うな!」
 鎌田重蔵は吐き捨てるように言った。
「小僧だって、ハッハッハッ。君は面白いことばかり言うね。君は人間の身体で八十年くらいだよね。たった八十年だよ、だから何にも知らないんだ。僕は君の何倍もあるよ。百年でも小僧だね、ホントに笑えるね」
 エフは微笑みながら言った。
「どうせすぐ死ぬんだ、ほっといてくれ」
 鎌田重蔵はそう言うと床の上に横になった。
「ホントに子どもだね、何にも知らない。チャラにはならないんだ」
 エフは困ったように言った。

nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:

第7章13 [宇宙人になっちまった]

「金か、金ならいくらでもある、芝浦、好きなだけ払ってやれ」
 鎌田重蔵は官房長官の芝浦智也に命令したが、芝浦はズボンを濡らして震えているだけで返事もできない。
「もう一つ教えてあげるね、閻魔大王っておとぎ話じゃないよ、本当なんだ。だからチャラにはならない。これから始まるよ」
 エフはそう言って鎌田重蔵から離れた。鎌田が不安そうに身体を起こすと、急に怯え始め、壁際まで座ったまま引きずられるように動いた。壁に背中を押し当てて座る鎌田は悲鳴を上げたり泣いたり喚いたりしている。その周囲を遠巻きにユニコ会の仲間や職員たちが眺めている。鎌田は一人で何を見ているのだろう、目は充血し血管は浮き出し心臓の脈動がわかるほどだ。老いた肉体が限界を超えて追い込まれている。このままだと肉体も精神も限界を超えてしまうだろう。
「許してくれ、許してくれ!」
 鎌田は両手を摺り合わせて何度も許しを請うたが、その声も枯れてほとんど聞こえなくなった。手だけを何度も摺り合わせているが、突然目を見開いたまま、大きな口を開けて動きが止まった。声は出ていないが絶叫しているのだろう。どれほど恐ろしいものを目にしているのだろう。
 鎌田は気を失い、両足を投げ出し、首を項垂れたまま座っている。両足の付け根から大量の小便が流れ出し、芝浦の足もとにまっすぐ流れて止まった。芝浦の足もとに大きな水たまりができた。アンモニア臭が漂い敬一たちは顔をしかめて鼻を押さえた。その刺激が鎌田の生気を呼び覚まし、フラフラと立ち上がり歩き始めた。うつろな目は誰も見ていない。敬一の目の前を転びそうになりながら歩いている。もうそこには悪魔もいないが、人間もいない。ただの抜け殻になっている。鎌田は今も泣きわめき、絶叫しているに違いない。真っ暗な空間で永遠に続く孤独な苦しみが始まった。
 敬一は鎌田の後ろ姿に、泣き叫ぶ姿が見えたような気がした。
「終わったね」
 エフがそう言うと、鎌田はドアを出たところで倒れた。

nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:

終章01 [宇宙人になっちまった]

    終章
 官邸の攻防から一ヶ月が経ち、敬一は久しぶりに仲間と一緒に病院の研修室にやって来た。キルケの手下にされていた三人の先輩も来ている。キルケの消滅で量子の悪魔はどうなったかわからない。頭からいなくなったのか、潜んでいるのかそれは誰にもわからないが、三人は自分を見失ってはいないようだ。乗っ取られていたときの記憶はまったく残っていない。
 キルケの下僕になることを自ら選んだ政界や経済界の人間は残らず法の裁きを受けることになる。私利私欲のために悪魔に利用されることを自ら望んだ罪は重い。
 鎌田重蔵は悪魔として生まれ、身代わりの綾音に自分をキルケと名乗らせた。本当に悪魔として生まれたのか証明できないが、死ぬときは間違いなく悪魔として死んだ。赤ちゃんは必ずしも真っ白で生まれてくるわけではない。それぞれ色んな色に染まって生まれてくる。敬一は今までそんなことは考えたこともなかったが、キルケの存在を知るとそうは思えなくなったのだ。しかしどんな色で生まれても、死ぬときは見事な純白になることもあると敬一のサードブレインは断言している。
 仲間たちは廊下の自販機に群がっているが、敬一は一人で窓際から外を眺めている。廊下から夢実のはしゃいだ声が聞こえてくる。あの声、敬一が助かったのは夢実のあの声のおかげだ。夢実が、「信じて!」と叫んでくれたからだ。あの声でサードブレインが我にかえったのだ。それまでキルケの幻覚を見ていたのだ。サードブレインは本当にアンテナだった。あの声でアンテナは宇宙の根源から送られてくるエネルギーを感じて生き返った。敬一はあの時のことをみんなに伝えようと思うが、言葉が見つからない。宇宙の根源なんて陳腐な言い方しかできないけど、言葉にすると一番近い気がしている。
 後で夢実に、「何を信じろって言ったの?」と訊いたら、「忘れた」と言われた。敬一はあの時自分が何を信じたのか思い出せないが、忘れてはいないはずだ。きっと必要なときには思い出すのだろう。
「はい、炭酸飲料ね」
 夢実が敬一の前に缶を置いた。あれから二人は自然に付き合うようになった。告白も何もなく、そうなるのが当たり前のようだった。絵里子は浜辺に熱心にアプローチしているようだが、夢実もどうなったか知らないようだ。陽介は相変わらずネットにユニコーン高校生情報をアップしているが、アクセスは少ないようだ。
 ドクターが入ってきた。
「やぁ、みんな元気そうだね。今日は色々知らせることがあるよ」
 ドクターはそう言って話し始めた。最初は心配していた例の処方薬のことだ。脳機能の回復は難しいと聞いていたが、実際は脳の補償能力が予想を遙かに上回ったと教えてくれた。現在では後遺症も見られず、乗っ取られた記憶は残っていないらしい。ただ難しいのは、そのせいで相当数の殺人があったことだ。乗っ取られた人が隣人を殺したり、その反対も多くあった。裁判能力を問うことは難しく、この傷を癒やすのは相当の時間が必要だと教えてくれた。
 量子のネットワークを利用した悪魔のことは謎のままらしい。現象から判断すれば脳が何かの影響を受けたことは明白だが、それを量子悪魔だと実証することはできなくて、もしかしたら、今も身の回りに無限に存在しているかもしれない。もうすでに頭の中にいて大人しくしている可能性も考えられると話してくれた。

nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:

終章02 [宇宙人になっちまった]

 そのほかにも色々連絡事項があったが、このユニコ会は定期的に続けていくようだ。今のところ十六名から増えていない。
 最後にドクターは大事な話があると言って、窓を指さした。窓の外に小さく円盤が見える。そう言えばエフの姿が見えなかった。
「エフからの伝言を伝えるよ」
 ドクターはそう言って話し始めた。
「本当は君たちの前に行きたかったけどね、今日は忙しいからね、それでね、言いたいことを言わなくちゃね。僕は知ってるんだ。君たちの父親のことをね。隠していたわけじゃないけどね……実は僕なんだ。でもエフじゃないよ。エフはね、僕の可愛いロボットなんだ。僕はずっと円盤の中にいて君たちを見ていたよ。ドクターにね、僕の写真データを渡しておいたよ。きっと君たちのお母さんが持っている写真に似ているはずだよ、本人だからね。前にも言ったけどね、君たちと僕はどこにいても話ができるからね。すぐに返事をするよ。そろそろ行かなくちゃね。
 そうだ。大事なことを忘れていたよ。君たちにお礼をまだ言ってなかったね。ありがとう。君たちは僕が頼んだ三つのことをやり遂げてくれたからね。
一つ目、サードブレインを信じること。
二つ目、君たちの仕事は悪魔を見つけて懲らしめること
三つ目、君たちは宇宙人になる。
 一つ目と二つ目は文句なしだね。本当に君たちは立派だったよ。三つ目だけどね、今はわからないかもしれないけどね、僕と同じになっていると思う。スイッチング遺伝子がオンになってるからね。君たちは人間を殺そうとしたり、考えただけでも頭が凄く痛くなるんだ。そんなことはないだろうけどね、大事なのはね、その遺伝子が君たちの子どもを通して未来へ繋がることなんだ。楽しみだよ。きっとこの星は宇宙でも超貴重な場所になるね。それじゃね、僕の家に帰るね、用事が山積みだよ。気が向いたらユニコ会に出るよ」
 ドクターは話し終えると写真を渡してくれた。母親が見せてくれた古びた写真に写っていた男の人がそこにいる。オヤジだった。夢実と血が繋がっていることがはっきりしたから、誕生日の早い夢実は敬一の姉になってしまった。敬一は早速エフに、夢実と結婚できるか聞いたら、「まぁ、いいと思うよ」と返事をくれた。
 窓の外を見たら、もう円盤は見えなかった。
 ユニコ会から数日が過ぎ、高校生活もようやく再開した。心に傷を負った生徒も多くいるが元気を出して頑張っている。
 敬一と陽介は久しぶりに天文部を覗いてみた。部室には以前と比べると人数は減ったが、活発に活動を再開したようだ。四階の一番奥の部室だ。ドアの小窓から覗くと長テーブルの端に綾音が座っているのが見える。しばらく入院していたと聞いたが退院したようだ。
「やぁ、見学だけどいいかな」
 敬一はこの前と同じように声をかけると中から部員が出てきて奥まで案内してくれた。
綾音が嬉しそうに俺たちを見ている。
「いらっしゃい、いいところだったわ。天文ドームの整備が終わったから案内するわ」
 綾音は二人を交互に見ながら言った。
「あ、ありがとう、俺、暗いところ苦手だから、ドームはいいかな」
 敬一はそう言いながら綾音の瞳の奥を覗いた。くりくりした瞳の奥には無邪気な女子高生が輝いているだけだった。
「残念ね、隣の風見陽介さんはどうですか?」
 綾音はくりくりした瞳を陽介に向けた。
「あ、俺も暗いところ苦手だったわ、それより今度どこか行こうよ」
 陽介は誘われついでに、みんなの前でちゃっかりナンパして照れている。
「それじゃ、夏休みになったらね、山梨にいいドームがあるの」
 綾音は嬉しそうに返事をした。オーケーのようで、陽介はバレバレに照れている。結局二人は部員から活動の計画を聞いただけで早々に部室を出てきた。
「やったな陽介! 綾音ちゃんかわいいな」
 敬一はそう言いながら陽介の尻を蹴り飛ばした。
「痛えな!」
 陽介は照れながら言った。
「俺さぁ、最近頭のてっぺんが変なんだよね、見てくれる」
 陽介はそう言って頭を敬一の前に出して見せた。敬一が手で触ると少し膨らんでいるようだ。
「なんか膨らんでる。お前も!」
 敬一が言うと、
「俺も……宇宙人になっちまった」
 二人は肩を組みながら階段を降りていった。
                                                                                                    了

nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:

ふ~終わった! [小説について]

 弱小ブログを読んで頂いている皆様に感謝です。どなたに読んで頂いているのかわかりませんが、ありがとうございます。



 小説、「宇宙人になっちまった」が、なんとかゴールしました。今回も出来は今ひとつでした。

 最初はどんなストーリーになるのか見当もつきませんでした。UFOが出てくるなんて予想もしていませんでした。なのに突然出てきて自分でも驚きました。でも出てきた以上話を続けるしかありません。

 もう少し、サードブレインの能力を発揮させたかったのですが、そうなると超能力とかの方向に行きそうでやめました。結局サードブレインの優れた能力とはなんだったのでしょうか? もう、綱渡りのような展開になりました。書き手としてはそこそこ楽しみながら書くことはできました。なので全てよしとします。


 次の小説も書き始めました。まだ1ページだけですが。今まで数年一本も書けなかったので、今年は三本完成を目指しています(汗)・・大風呂敷ですが。


 ここ数年、淡々と平凡に暮らしてきました。ありがたいことです。今の時代は平凡に暮らせることが宝物のように思えます。だから感謝の日々なのです。


 でも思いました。やはり燃えなくちゃ! と。節目を作りたいと思ったのです。

やっぱり、面白い方がいいに決まっています。熱と汗です。これがあると面白いのです。で、誰に言うわけでもなく、知られるわけでもなく、平凡な振りをして、実は必死の形相で汗を流す。それが私にとって小説なのです。何もないところから話を創り上げるのはけっこうしんどい作業ですが、上手く進むと面白い。でもしんどい。両方ですね。一応出版社に送っていますが、まぁ、形にはならないでしょう。そうなれば、全ての努力はゴミ箱行きになります。それでも続けるのは、やはり頭のネジが一本取れているのでしょう。

 まぁ、日々熱中しているわけですから、惰性のように日々が過ぎるよりはいいだろうと納得させています。


 ヨットの夢は一時撤退です。一時撤退ですよ。で、売却しました。維持がしんどくなったのです。でも、また別の船が欲しくなって困っています。そんな余力もないくせに次の船を選定し始めています。困ったものです。


 まぁ、書き始めれば何を言い始めるかわからないのでこのくらいにします。

今年は勝負師になろうかなぁ~

皆さんは自分の一年をジャッジして勝ちとか負けとか決めたりしますか?

私は毎年ジャッジは曖昧にして誤魔化しています。

で、今年はジャッジを明確にしようと思っています。

今年は勝ったと言いたい!


そうそう、次の小説のタイトルは 「ベンチの隣には」で書き始めていますが、このままアップするのはちょっと迷っています。これでいいのか、と自問自答です。なんか、すぐに挫折しそうなタイトルです。アップしても今までのように連チャン投稿はむずいかなぁ・・・連チャンに拘っているわけではありませんが、自分を甘やかさないためなのです。いつでもいいよってなると、怠け者の私はいつまでも完成しなくて、けっちょく中途終了になりそうだからです。ほんとにどうしよう・・


nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:

開始します [小説について]

 満を持して、ではありません。まァ、いっか!的な、テキトーな感じで小説をスタートします。

 タイトルは「メロディー・ガルドーに誘われて」です。もちろん仮題ですが。

何も決まらず、ただ出だしの部分だけ書いたので、続きは本当に未定なのです。殺人事件が起こるのか、恋愛が始まるのか、地球の滅亡が始まるのか。

 だから、自分でもどうなるのか楽しみに書いているのです。舞台は現代なので、コロナを含めてと思いましたが、正直面倒なので(笑)、コロナのない想定で書いています。

 途中で挫折したら、そのまま放置するかも知れません。すでに放置しているのが二本あるので、かなりの確率で可能性ありです。でも、いずれ完成させようとは思っているのですが・・・


 まぁ、そんなところなので、もし、お付き合い頂けたら読んでみてください。つまらなければ放置してください(笑)


nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:

第1章01 [メロディー・ガルドーに誘われて]

          「メロディ・ガルドーに誘われて」
 祐介が久しぶりに新宿の街にフラリとやって来たのは特に理由があるわけではない。仕事を辞めて暇になっただけのことだ。次の仕事がある保証は何もないが、多少の貯蓄と失業保険を貰いながら次の仕事をのんびり探せばいいと気楽に考えている。
 東口から歌舞伎町に向かって数分ほど歩いた頃だ。聞き覚えのある歌声が地下に続く階段から漏れてくる。メロディ・ガルドーのようだ。その薄暗い階段の脇に〈ジャズ・ビザール〉と書いた看板が出してある。これだけでは地下に下りようとは思わないが、歌声に引きずられるように階段に足を踏み入れてしまった。
 身体を横にしないとすれ違うことはできないだろう階段を降りると木製のドアがある。小さな覗き窓があり、その横に小さく全席喫煙とマジックで書いてある。祐介にはありがたいが、今時こんな店があるのかと不審に思う。中を見ると薄暗い室内に人がいる気配はない。歌声がドアに響いている。ゆっくりドアを押すと心地よいウッドベースのリズムが迎えてくれる。店員らしき人影もなく、小さなテーブルとセットで心地良さそうな椅子がたくさん並んでいる。細長い室内の一番奥にカウンターが有り、覗き込むように見ると中年の男の人が小さく頭を上下に動かした。そのカウンターの左右に大きなスピーカーが幅を効かせている。音楽は個別にイヤフォンで聴くものだと思っていたが、この店ではどうやら一つの音を客全員で共有するシステムのようだ。祐介はスピーカーから一番遠い端の席に座った。今まで見たことのないスピーカーで、ただの四角い箱ではない。まるで蟻地獄のようにすり鉢状になっている。その一番底の部分に大きなスピーカーが取り付けられている。正方形の箱の一辺は一メートルくらいはありそうだ。この箱の上にはトランペットの先だけのようなホーンが乗っている。マスターの後ろにはアンプと思われる装置が青い光を出していて、これだけでも相当迫力のある景色だ。
 椅子に座ると正面から音波が押し寄せてくる。何度も聞いたあの歌だが、イヤフォンの音とはまるっきり別物だ。音は生き物のように祐介の周囲を飛び跳ね、貫いてくる。まるで音の怪物に蹂躙されているような気がする。音楽は肌と骨と内蔵で聴くものだと感じる。この場所に座ると、鼓膜で聞こえる音などたかが知れているような気がした。
 歌が終わるとマスターが黒表紙のメニューを持ってやって来た。六十過ぎの髪の毛が薄く富士額になっている痩せた男だ。メニューを開いて渡してくれたが、書いてあるのはコーヒーと緑茶に紅茶の三種類だけだ。コーヒーを指さすと黙って頷きカウンターに戻った。
 歌舞伎町の近くで金曜の夜十時だというのに客は祐介一人だ。まるで異世界にタイムスリップしたような気分がする。確かにこの階段を下りるまでは、耳を覆いたくなるような騒音に晒され、ケバい服装の歳のよくわからない女や酔っ払いを避けるようにここまで歩いてきたのだ。祐介は地上へ繋がっているドアを眺めながらタバコに火を点けると次の曲が聞こえてきた。またジャズボーカルだ。煙が天井のスポット照明に向かって揺らめきながら登っていく。その煙を見送ると金属製の薄っぺらい灰皿にトントンと灰を落とした。

nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:

第1章02 [メロディー・ガルドーに誘われて]

 祐介がタバコを吸い始めた頃は、喫煙席を設けている店が多かったが、最近はどんな店であれ、店内でタバコを吸える店は皆無と言って良い。それどころか都内では屋外でも喫煙場所が見当たらないのだ。それを思うとこの店のシステムは時代に逆行しているとしか思えない。自分は喫煙という餌に食いついた獲物のようだ。確かに好きな音楽を聴きながらタバコをくゆらせることができるのは極上の空間と言える。珈琲一杯が五百円少々でこんな気分にさせて貰えるなら毎日通っても構わない。
 祐介のこんな気持ちをわかってくれる友人は一人もいないだろう。周辺でタバコを嗜んでいる人はいないからだ。彼女と付き合っていた時期もあったが、室内で吸わせて貰えないし、店に入れば禁煙席に行く。タバコが吸えないとイライラが募ってくる。そして小さなケンカが勃発する。そんなことを繰り返すうちに、取り返しのつかないケンカに発展して別れてしまったのだ。それでも祐介はタバコをやめない。最近ではタバコを吸っていると変な眼差しで見られることがある。時代から取り残された可哀想な人たちと思われているのだろう。あるいは、健康に悪いのがわかっているのに止められない、意志と頭の弱い人たちと思われているのかも知れない。
 店主が珈琲を持ってきてくれた。カップの隣に小さな紙片を置いていった。リクエストカードと自筆で書いてある。先ほどから流れているのはずっと同じで、メロディー・ガルドーだ。アルバムを最後まで聴かせるようだ。祐介の好みはやや古めのジャズで、マイルスとかコルトレーンが好きだが、マスターの選択に任せてみようと思う。客は俺一人だから、きっと俺の雰囲気に合わせて次のアルバムを選んでくれるかも知れない。
 大きめのカップに入った珈琲を少量口の中に流し込んだが、まぁ普通の珈琲だ。タバコと珈琲を交互に味わい、煙の行方を眺めながら時々店主を見たが、下を向いて次のアルバムを選んでいるように見える。
 ドアがバタンと音を立てて開いて女がうつむきながら入ってきた。少しふらついているように見える。背中にリュックを背負っている。慣れた様子で祐介のいる側の端に座ると、カウンターに向かって軽く手を挙げた。店主は少し顔を向けただけですぐに手元に視線を戻した。祐介はさり気なく女を観察しながら煙を吐いた。酒の匂いがタバコの香りと入れ替わるように漂ってきた。左右のコーナー席に座っているので、位置的には真横になる。視野の端で観察するのが精一杯だ。祐介はこの店は初めてだが、横の女は常連のような振る舞いをしているから、少々気後れしてしまう。女が下を向いているときにさり気なく観察すると、今年三十二歳の祐介よりは年下に見える。あまり化粧っ気はなく、 ジーンズに長袖Tシャツにパーカーという服装は、派手な女の多い歌舞伎町周辺では逆に浮いて見えるかも知れない。薄暗い室内で、しかも下を向いている時の観察だから当てにならないが、少し美形に思えるのは自分の期待値も加算されていると祐介は思った。

nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:

第1章03 [メロディー・ガルドーに誘われて]

 しばらくして店主が祐介と同じカップを女のテーブルに置いたが、女は下を向いたまま動かない。どうやら壁に身体を預けて眠ってしまったようだ。カップに触れることなく、僅かに肩が上下に動いている。祐介は眠っていることを確信すると、遠慮なく女を観察した。最初に見たときと印象はそれほど変わらない。ややぽっちゃり体型で、ジーンズが窮屈そうだ。
 次のアルバムになったが、また女性ボーカルのようだ。カウンターまでジャケットを見に行くと、セシリア・ノービーという知らない歌手だった。店主の好みなのか、常連の女か、それとも祐介の為なのかわからないが気に入った。祐介も女のように壁に身体を預けながら目を閉じて聴いた。巨大なスピーカーからウッドベーズの音が心地よく響いてくる。眼を開ければそこに生で演奏するジャズメンがいるようだ。目を開けたい衝動を感じながら、切なさの混じったボーカルの歌声が身体を通っていくと、心の中の何かが緩やかに揺さぶられた。
 次の曲が始まる前の数秒の静寂も音楽の一部のように味わっていると、女の方から小さな声が聞こえ反射的に顔を向けた。女の頬を涙が伝い顔を歪めている。眠っているのか、目覚めて泣いているのかわからない。店主の視線を感じてカウンターを見ると店主が小さく顔を横に二度ほど動かした。祐介は小さくうなずき珈琲を口に運んだ。店主がまた曲を変えて祐介を見た。どうだ、いい曲だろうと言うつもりなのか、祐介の関心を女から自分の選んだ曲に向けたいのかわからない。どちらにしても、店主は女のことは放っておいて音楽を楽しめて言っているのだろう。つまりはなんの心配もないということだ。
 祐介はアルバムが気になりカウンターまで見に行った。やはり祐介の知らないボーカルで、エバ・キャシディと読めたが知らない名前だ。祐介が入ってからは女性ボーカルばかりで、ジャズらしいジャズが一曲もかからない。全部判で押したようにスローで、ウッドベースが効果的に響いてくるような曲ばかりだ。嫌いではないが、少しパンチの効いたサックスやピアノ曲が聴きたいところだ。
 祐介が席に戻ろうとすると、
「悪いね、いつもなんだ。この後少し賑やかになったら落ち着くはずだ。まぁ、あんまり気にしないでくれ」
 店主はそう言うと肩をすくめて笑った。祐介は特に何も言わず、さっきのように小さくうなずくと席に戻った。時折女の方を見るが、頬を伝う涙は止まらず顎の先端からTシャツの上に落ちている。眉間に皺を寄せ口角を下げた顔は、見ている自分も何やら心を締め付けられるようだ。女の感情が伝染したのか、それともエバ・キャシディのせいなのかわからない。祐介はただその感情に身を任せて、表現しようのない切なさを味わった。それが心地よくもある。営業時間は五時までなので、最後までいたって構わない。祐介は切なさと朝までの居場所を確保できた安心感に包まれながら眠気に襲われた。

nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ: