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第7章13 [宇宙人になっちまった]

「金か、金ならいくらでもある、芝浦、好きなだけ払ってやれ」
 鎌田重蔵は官房長官の芝浦智也に命令したが、芝浦はズボンを濡らして震えているだけで返事もできない。
「もう一つ教えてあげるね、閻魔大王っておとぎ話じゃないよ、本当なんだ。だからチャラにはならない。これから始まるよ」
 エフはそう言って鎌田重蔵から離れた。鎌田が不安そうに身体を起こすと、急に怯え始め、壁際まで座ったまま引きずられるように動いた。壁に背中を押し当てて座る鎌田は悲鳴を上げたり泣いたり喚いたりしている。その周囲を遠巻きにユニコ会の仲間や職員たちが眺めている。鎌田は一人で何を見ているのだろう、目は充血し血管は浮き出し心臓の脈動がわかるほどだ。老いた肉体が限界を超えて追い込まれている。このままだと肉体も精神も限界を超えてしまうだろう。
「許してくれ、許してくれ!」
 鎌田は両手を摺り合わせて何度も許しを請うたが、その声も枯れてほとんど聞こえなくなった。手だけを何度も摺り合わせているが、突然目を見開いたまま、大きな口を開けて動きが止まった。声は出ていないが絶叫しているのだろう。どれほど恐ろしいものを目にしているのだろう。
 鎌田は気を失い、両足を投げ出し、首を項垂れたまま座っている。両足の付け根から大量の小便が流れ出し、芝浦の足もとにまっすぐ流れて止まった。芝浦の足もとに大きな水たまりができた。アンモニア臭が漂い敬一たちは顔をしかめて鼻を押さえた。その刺激が鎌田の生気を呼び覚まし、フラフラと立ち上がり歩き始めた。うつろな目は誰も見ていない。敬一の目の前を転びそうになりながら歩いている。もうそこには悪魔もいないが、人間もいない。ただの抜け殻になっている。鎌田は今も泣きわめき、絶叫しているに違いない。真っ暗な空間で永遠に続く孤独な苦しみが始まった。
 敬一は鎌田の後ろ姿に、泣き叫ぶ姿が見えたような気がした。
「終わったね」
 エフがそう言うと、鎌田はドアを出たところで倒れた。

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