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第2章15 [メロディー・ガルドーに誘われて]

「UFOを見たのは本当よ。あのときカズがいなかったら私も今頃行方不明かも知れないわ、マンション屋上から忽然と消えた中学生ってね。何も証拠がないから信じてくれたのは母とカズだけ。学校の友達は皆面白がって、しばらくは二人とも珍獣扱いだったわ。でもすぐ飽きられた。だって本当だとしても何がどうなるわけでもないし、へぇ、それでってなるのよ。だからね、それからはUFOの話は誰にもしてないわ。だからサークルに入って仲間内で情報を共有して話したり、調べたりするようになったって訳なの」
 紗羅はそう言うとコーヒーを口に運んだ。
「もしかしたらさ、UFOを見たことのある人はたくさんいるかも知れないね。俺たちのようにね」
 祐介も冷めかけたコーヒーを口に運んだ。
「その通りよ。東京サークルのメンバーは三十二人だけど、全員接近遭遇経験者よ。UFOが頻繁に来て人間を乗せる話はサークル内では常識ね。実際に乗ったことのある人の話も聞いたわ。宇宙人は仲の良いお隣さんよ」
 紗羅は当たり前のように言った。
「それは初耳だぞ、詳しく聞かせろよ」
 カズはアンプのボリュームを絞ると、身を乗り出すようにして言った。
「そうね、アブダクションの話はしてなかったわね。UFOの話は飲み会で時々ネタにすることもあるし、不思議がってもらえることもあるけどアブダクションの話はちょっと次元が違うのよね。カズだってママだって、話を聞けばきっと何か怪しいことに巻き込まれているか精神的な問題を抱えていると思うわ。でなければ、UFOはタクシーじゃないし、ゴミ出しで出会うお隣さんとも違うだろうと突っ込まれるのが関の山ね。絶対本気じゃ聞いてもらえないと思う。図星でしょう?」
 紗羅は大きな目でカズを睨むように言うと、カズはしばらく天井を見上げて黙っていた。
「アブダクションか……。確かにそれは信じがたいね。だけど、冷静に考えてみると、これだけ目撃情報が世間に溢れているんだからね、まぁ、乗った人がいたって不思議ではないということになるよね。いや、それでもあり得ないよ、もしそれが本当に事実だったとしても世間は絶対に認めないね。もし認めてしまったら、世界の存在そのものが揺らいでしまうと思うよ。人間を凌駕する存在を認めるんだよ、目に見える神を認めることになる。世界のバランスが根底から崩れて混乱するよ」
 カズはそう言うと又考え込んだ。ビル・エヴァンスのピアノが響いている。
「今夜はカズのところに泊まりね」
 紗羅はそう言うと店内の椅子を片付け始め、祐介も手伝った。

タグ:UFO
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