SSブログ

第3章4 [メロディー・ガルドーに誘われて]


「この盤をリクエストした人は君が初めてだよ。でもどうしてこの盤がそんなに気に入ったの?」
 カズは針を下ろしながら訊いた。
「気に入ったというより、特別な記憶と結びついて印象に残っているんです。聴くのは二回目です。あれ以来一度も聴いたことはありませんでした。あの日の話を聞いてもらおうと思ってここに来て、あの日のレコードを思い出したのですから。なんだか不思議な気分になりました」
 希良はそう言いながら店内に響く乾いた音に耳を傾け、会話はそこで終わった。特別な記憶が何なのか、誰も早く聞きたいと思いながら希良と同じようにマイルスに耳を傾けている。レコード盤の上を針が半分ほど進んだところで希良が口を開いた。
「あの日のことは今でも鮮明に覚えています。沙羅さんと同じように夏の夕暮れ、マンションの屋上でした。普段なら夏のマンションの屋上なんて誰も行こうなんて思いません。だけど、あの日は特別でした。クーラーの効いたリビングで携帯をいじっていました。それが急になんです。何かに突き動かされるように部屋を飛び出して屋上へ行ってしまいました。屋上なんて行く必要もないし、行ったこともないんですよ。衝動的としか説明のしようがありません。気がついたら頭上にUFOがいたんです。そこからの記憶はとても断片的で上手に説明できないと思います」
 希良はそこまで話すとコーヒーを飲んだ。
「UFOに呼ばれたって言う人もいるけど、希良さんはそんな感じはあったの?」
 カズが訊いた
「そうですね、部屋を出てから屋上まで何を考えていたのか今でもわかりません。やはり衝動的としか言いようがありません。呼ばれたって思ったのはUFOを見上げたときでした」
「で、その時の気持ちは嬉しいとか怖いとか、楽しいとか、どんな感じだったの?」
 またカズが訊いた。
「なんだか妙に納得しました。そこで記憶が飛んで、次は円盤内にいました」
「いきなり円盤に?」
 カズは不審げに訊いた。
「ええ、そうなんです。本当にいきなりだったんです。なるほどと思った瞬間に円盤内に行ってしまったんです。エレベーターのように吸い込まれたとか、映画で見るような派手な場面はありませんでした」
 希良はカズをまっすぐ見つめて話した。

nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ: