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生き霊(2) [小説 < ブレインハッカー >]

憑霊信仰論―妖怪研究への試み (講談社学術文庫) 憑霊信仰論―妖怪研究への試み (講談社学術文庫) (文庫)
小松 和彦 (著)

 

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セミ -

幅広い日本の「憑霊」というものについて、表面的な分析ではなく周到な実地調査の末、記された本である。
現代のいざなぎ流の実態など、外部の者にはなかなか窺い知ることのできない地域性の濃い部分もあり、非常におもしろい。
図画も多く、文章も論文という体裁ながら専門用語を多用しておらず平易で読みやすい。
「陰陽師」「妖怪」「呪詛」「いざなぎ流」これらどれか一つにでも少なからず興味をお持ちの方は一読する価値が充分にあると思う。(レビューより)

 

 

 

                         生き霊(2)

 変わらず得体の知れない恐怖感を感じていたが、喫茶店の中では落ち着かず、達夫が使っていた簡易ハウスの中に入った。誰かが整理をしてくれていたのか中は小綺麗に整理されている。

 伸也の気が散らないよう、全員横になって休むような形になり、そして伸也は目を閉じた。目を閉じるとまたあの鎧武者が出てきそうな気がしたが、先程と違って相手から送られてくるものを無防備に受け止めるようなことはしなかった。蛇口を慎重に注意深く開いていくような感じだ。ブルーシートを通した光は瞼の毛細血管を照らして閉じた視野をオレンジに染めていた。緊張を解くにつれ徐々に視界は靄がかかったようになり活発に動くアベーバのような模様が見え始めた。伸也にはこのプロセスが体外離脱に繋がることが分かっていた。<そろそろだな>と思い始めた頃、視界の一番奥の方に人の顔らしき物がドロドロになって見え始めた。そしてシャッターを切る程の瞬間明瞭に見える。何度目かにその顔を追うように集中した。

 伸也はあっと息を呑んだ。目の前にいるのは女なのだ。リクライニングチェアーに座り虚空を見つめている。注意深く女の表情を観察したが伸也の侵入に気づいた様子は無い。伸也より少し上で二十代半ばくらいに見える。この女が鎧武者の正体だったのだろうか。細長く引かれた眉とやや薄めの唇、鼻筋は通り顎はシャープな感じである。知的なキャリアウーマンのように見えるこの女と鎧武者はどうしても結びつかない。

 室内を見回すと、まるでホテルの一室のように趣味の良い調度品が置いてある。家具は少ないがどれも高級品に見え、窓際に置かれた木製の大きな机はとても一人では動かせそうもない。本棚は隙間もないほどびっしり詰まっている。部屋がもう一つありドアをすり抜けようとしたとき女の体が動いた。

 女はゆっくり体を起こすと周囲を何度も眺め回し、だるそうに立ち上がった。そして、
「あの男!」
 と小さな声で吐き捨てるように言うと、伸也のいるドアーに向かってきた。まだ伸也の存在に気づいた気配はない。ドアーを開け伸也も後ろをついて部屋の中に入った。その部屋には中央にダブルベッドが置いてあり、誰かが眠っているのか中央が盛り上がっている。女は着ているものを脱ぎ捨てるとベッドの中に潜り込み、その盛り上がった部分に覆い被さるような姿勢になった。

 寝具がずれて中から男の顔がのぞき、眠そうな顔に笑みを浮かべて女を見ている。女は甘えた声で、
「終わったわ」
 と言って男の首に手をまわした。男が、
「それで?」
 と訊くと、
「少し妙ね、手応えが変わったわ、ほとんど何も感じなくなったの。昭彦という男は思った以上かもね………」
 そう言いながら男の首筋を愛撫し始めた。
男は女の背中を指先で愛撫しながら、
「思った以上って………どのくらい?」
 と、粘ったような声で訊いた。
女は、
「あなたより強いかもしれないわ」
 と応え、笑みを浮かべながら首筋から厚い胸板に唇を這わせた。

 伸也は目の前の情事にほとんど興味を感じなかった。体外離脱をしたときは性的な興味を殆ど感じない。むしろ後で思い出して感じたりすることがあるのだ。

 伸也はベッドルームを出るともう一度女のいた部屋へ戻り丁寧に眺め回した。特に二人の正体が分かるような物は見当たらない。ゆっくりと室内を移動し、机の辺りに行くと妙な感じがした。。何か気になり惹かれる感じがするのだ。だが机の上にはパソコンと周辺機器、いくつかの文房具ががきちんと並べて置いてあるだけで何もない。引き出しの中に何かありそうな感じがしたが、中を見る術は分からない。今までにも離脱中の体で何度か物に触れようとしたが、いつも出来なかった。手は物体の中に吸い込まれていくが手は見えないし、手応えも何も感じなかった。試しに手を引き出しの中に入れてみたがやはり見えなかった。だが何かを感じるのだ。しかも引き出しの中に手を入れるとその感覚は増幅され、記憶のどこかが刺激されるのだ。何度も何度も試してみたがやはり分からない。デジャブのような感じで、記憶はおぼろだが確信めいた感覚もある。

 

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