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第3章11 [宇宙人になっちまった]

 エフの困った顔は敬一を不安にさせた。それどころか、彼らが突然襲ってくる可能性があると言うのだ。そうなると対応策が思いつかない。敬一のサードブレインには今のところ物理的な暴力に対抗できるような力は無さそうだからだ。それに彼らの顔を見たことが無いから近づかれても分からない。ネックレスだって肉体に入った悪魔には反応しないから役に立たない。考えれば考えるほど自分たちに不利な条件ばかりが目立ってくる。
「俺が奴らの情報集めてやるよ、悪魔に乗っ取られる前はネットのどこかに情報残してるさ。名前と高校が分かれば十分だよ」
 陽介はそう言いながらもう指は動いてドクターに連絡している。とにかく基本情報を手に入れようというのだ。ドクターならかなりの情報を持っているはずだ。
「ねぇ、エフは進化した宇宙人なんでしょう。なんか便利な道具で、例えば完璧なバリアー張ったり出来ないの? 後は透明になるとか。遠くの星から来たんだからそれくらい朝飯前でしょ」
 絵里子が少し苛ついた様子で言うと、エフは何かを思いついた様子で隣の部屋へ消えた。しばらくすると、小さな包みを幾つか持ちニコニコしながら戻ってきた。
「思い出したよ、いいものがあった。ちょっと僕を殴ってごらん、絶対本気だからね」
 エフはそう言うと絵里子の前に顔を突き出した。
「いいのね、手加減しないわよ」
 絵里子はわざと大きく拳を振り上げてから顔面めがけて振り下ろした。エフはひょいと拳を避けると、まだまだと言って顔を突き出した。絵里子はムキになって拳を素早く何度も動かしたがその度に軽く避けられてしまった。隣にいた陽介は携帯を操作していた指の動きを止めると、
「俺の番だ!」と声を出して殴りかかった。エフ以外の誰も当たったと思ったが、寸前でまたもひょいと避けられ、エフはニコニコして立っている。
「これ、使えると思うよ。何かの調査で地上に降りるときに着ているんだ」
 エフは手に持った包みを開けると、中から薄いシルクのような素材の衣服が出てきた。パールホワイト色で艶がある。しかし、エフが着るにしてもサイズが小さく、とても高校生の身体が入るようには見えない。エフはそんなことにはお構いなく着ろと言わんばかりにそれぞれ手渡した。
 陽介は無理を承知の上で腕を通すと、服が陽介の身体に合わすようにサイズが大きくなった。陽介は驚きながらゆっくりもう片方の腕を通し頭を通すと驚くほどジャストサイズに収まった。勿論下半身も同じように変化した。ジーンズの上から履いたのでその窮屈感はあるが、服自体はまったく圧迫感無くフィットしている。
「危険を探知して回避できる服なんだ。人間に襲われることは想定していないけどね。動物とか突然のアクシデントに対応するよ。原理は自動車の自動運転装置と同じ原理だから簡単だよ。ほとんど君たちの持っている技術で作れると思う。難しいのは服の素材かな。細い繊維の一本一本が電気信号で動かないといけないからね。その繊維が筋肉のように身体を動かしてくれるんだ。だから本当は素肌に直接着るんだけどね。これを着ていればかなり安全だと思う。回避するかどうかの判断も服自体が勝手にしてくれるよ」

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