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悪夢(11) [小説<物体>]

                             悪夢(11)

 健二老人が隣の研究室から戻ってきた。シミュレーションの内容は知っていて俺に感想を訊いた。
「確かに研究は凄いと思いますが、こんなことをしてて大丈夫なんですか、オロチがどんどん生まれて這い回るようになったら俺たちはどうすればいいんですか?」
 俺は昨夜の恐怖を思い出しながら言った。
「君の心配は分かるよ、私だって同じように思ってる。出来ることなら手っ取り早くオロチをどうにかしたいし、その方法を見つけたい。しかし何の手がかりもない状態ではどうにもならないんだ。今は遠回りのようでも、徹底的に奴らを分析して正体を知らなければ対抗策を見つけることは出来ないだろう。若い研究員は地球外生命を自分の手で見つけ出せると張り切っているがね、それも必要なことなんだ。ところで君たちにも協力して貰いたいことがあるんだが、いいかね」
 健二老人はそう言うと、俺たちを通信機器を集めたテーブルに案内した。アマチュア無線機器とマイクロ波通信機器が揃っている。チャンネルを変えながら受信と送信を交互に行い、新たな拠点を見つけることが仕事だ。チャンネルと言っても、殆どの帯域をカバーしているのでチャンネル数はかなりの数になるらしい。国内の状況は不定期だが国営放送で知らされる。それもチェックしなくてはいけない。戒厳令本部とは専用回線が準備されているが、こちらに有益な情報は皆無に等しいと言っていた。どうにも動きが取れないらしい。

 俺たちはヘッドフォンを着け、受信と送信を交互に繰り返したが、応答に巡り会えることは滅多にない。一時間に一回あればいい方だ。応答があればお互いの情報を交換してマップに位置と情報を入力する。
 どこも孤立状態で、俺たちの住んでいた多摩市も状況は悪化し、オロチが次々に住民を襲っているらしい。警察官が数人でオロチに向けて発砲したが、数発撃ち込む間にアメーバーが飛び散り全員犠牲になったと聞いた。オロチは動かなくなったが、遠藤さんのようにアメーバーが警官の体内に入り込み命を奪った。最後はとても無惨で見ていられなかったという。内側から溶けるように形が崩れ、中からアメーバーが這い出すらしい。その事件以来手の出しようが無く、住民はひたすら戸締まりを厳重にして息を潜めるしか生き延びる手だてが無いと伝えてきた。

 ツリーチルドレンの居所をオロチは何かの方法で知ることが出来るらしく、見つかるとオロチに家の周りを取り囲まれてしまうとも言っていた。僅かな隙間が見つかるとそこからアメーバーが侵入して家族全員が犠牲になる。マンションは比較的機密性が高く生き残っているが、一軒家は入り込む隙が多く逃げ出す家族も多いらしい。この研究所も時間の問題かも知れない。明日の朝には周りをオロチの群れに取り囲まれているかも知れない。この建物は窓は少なく、入り口も機密性の高いドアなので大丈夫とは思うが、とにかく研究を早く進めて欲しい。宇宙人を見つける前に殺されてしまうかも知れない。

 半日かけて都内で連絡が取れたのは数カ所に留まった。どれも以前から連絡を取り合っていた場所ばかりだ。どこの拠点でも近所から上がる悲鳴を聞いたり、突然家を飛び出して逃げる家族を見るらしい。おそらくツリーチルドレンの家族ではないかと言っていた。

 

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