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退行催眠(8) [小説 < ブレインハッカー >]

100万回生きたねこ (佐野洋子の絵本 (1)) 
By sherry 

自分を愛せない生き方、人は図らずもそんな生き方に陥ることがままあります。心無い支配者に左右される身の上-抑圧された中で、本当の自分を偽りながら自分を否定しながら生きていくと、自分を愛せなくなります。

百万回生きた中で巡り会った百万人の飼い主たちは、自分なりにねこを愛したのでしょう。だけどやっぱり、ねこを本当の意味では大事にしきれていなかったのかもしれません。のらねこになって初めて与えられた、誰のものでもない自分自身の生。自分らしく生きることが出来て、ねこははじめて自分を好きになりました。そのとき、愛する妻子を得ました。もう、百万回生きたという自慢話は、彼にとって輝きを失っていました。そして、納得づくで生きました。それ以上の生なんてどこにもないのでしょう。

そんな当たり前に思える生に巡り会うまでに百万回も生きなければならなくて、でもそれを見事に果たし終えたねこに、敬意を表したいと思います。 (ブックレビューから抜粋)

私の感想は・・・心にドンと大きな物がぶつかってきました。子供に深い話は難しいとは思いません。子供だ    からこそ分かる深さもあるのです。むしろ、命に関しては、大人以上の深い感性があるとあると思います。

子供と一緒に読みたい本です。

 

 

                                    退行催眠(8)

「潮見先生、私と由美の幻覚の意味は、ここへ来るためだったのかも知れません。ここに集まるために幻覚を見たんです。回りくどい方法のようですが、間違いありません。この石が見たかったんです。そして、奴らと戦うためなんです」
 と、きっぱり言い切った。

「戦うとは勇ましいけど、いったいどうやって………最初は半信半疑で面白がってたところもあったけど、相手は生半可な連中じゃないよ。本当に人の命をなんとも思わない連中だとしたら、我々の力じゃ……」
 と、潮見はみんなを見回しながら不安そうな色を浮かべて言った。
「先生、これは私たちにしか出来ないことなんです。マスコミだろうが、警察だろうが、どうにも出来ない相手なんです。対抗する術が無いんです。警察は彼らを捕まえることが出来ないし、マスコミは誰も信用しないでしょう。どこも動かないんです。動けるのは私たちだけなんです。破滅は針の穴のようなところから始まり、誰もそれに気づかないものなんです。その穴を塞げるのは私たちだけです。だからやりましょう。大袈裟じゃなく、私たちの肩に人類の未来がかかっているんです。具体的には分かりませんが、おそらく細胞の自殺の連鎖が起きると、瞬く間に一つの町、それどころか人類を滅ぼしてしまうことだってあり得るんです」

 達夫はみんなの顔を一人一人確かめるように見ながら話した。
潮見は腕組みしながら考えていたが、
「いいでしょう。私たちにしか出来ないのなら。これほどやりがいのあることはありませんね。私も乗りかけた船だし、それに完全なる破壊者ということにも興味がありますからね」

 そう言うとハッハッハといつもの呑気そうな声を出して笑った。
伸也も皆も潮見につられて笑ったが、命に及ぶような危険に立ち向かおうとしていることは十分承知の上だった。伸也は由美の横顔を見た。今までとは違って見える。何かが違っているのは石のせいだろうか。由美の中にも何かが目覚め始めているのを感じていた。こうなることを心待ちにしていたような気がするのだ。今まで繋がることの無かったさまざまな経験、出来事、それらすべてがこのときを目指して繋がったように感じた。このときのために自分は生きてきたとさえ感じるほどの充実したものを感じた。体と心が震えているのがわかる。

 由美は伸也と皆を見ながら言った。
「私と伸也さんで浅草の男に近づいてみるわ。いいでしょう伸也さん」
 伸也にも由美の意思は伝わり、
「ああ、これは俺たちの仕事だ」
 と落ち着いた表情で言った。
「近づいてどうしますか?」
 と達夫が聞くと、
「まず相手を知ることからです。いったい何をしようとしているのか、じっくり観察してみます。私たちは何も知られていないからそれ程難しくないでしょう」
 と言うと、
「いや、それ程甘くはないと思いますよ。相手の脳に影響を与えることが出来るんですから。このぐらいのことは少しの訓練で可能です。昭彦にもその程度の力はありますからね。伸也さんの中にある何かを察知することだって可能かも知れません。だから、十分注意してあまり近づかないほうがいいと思うよ」
 と心配そうに言った。

「お兄さんはどうするの?」
 と静江が聞くと、暫く考えていたが、
「俺は大江に帰って親父に合う。どうしても知りたいことがあるんだ。奴らの網の張り方は分かったから今度は見つかるようなへまはしないさ」
 と応え皆を見回して、
「ジュリアは悪いけど先生の部屋を借りて研究所の情報を集めて欲しいんだ。静江も一緒に頼むよ。それから昭彦は伸也君たちと一緒に頼む。竜太郎君は俺と一緒に来てもらいたいけどいいかな」
 と役割を決めた。
そして最後に、
「先生には一つお願いしたいことがあるんです」
 と、戦後所在が分からなくなった酒呑童子の子孫を調べて欲しいと潮見に頼んだ。
 由美が皆の顔を見ながら指折り数え始めた。

「九旗昭彦さん、お兄さんの達夫さん。妹さんの静江さん。それにジュリアさんでしたよね。彼は、九旗竜太郎さん。それに私と伸也さんと潮見先生。全部で八人ね。私の幻覚がこんなことに繋がってるなんて夢にも想わなかったわ。でも不思議ね、初対面なのにこんなに親しく感じるなんて。今までの私には考えられないことよ」
 と嬉しそうにいった。

 年が明けたばかりの街は活気に溢れているように見えるが、しかしその活気をじわじわと飲み込み始めている力がある。誰もそれに気がつかないが間違いなく力を増しつつある。
地球と言う生命に出来た小さなガンなのだ。総てを破滅させるまでその勢いは止まらない。もう時間が無いのだ。

 

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