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ブレインハッカー 第7章 修練(1) [小説 < ブレインハッカー >]

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私、重宝しています。室内でも屋外でも使えるところが嬉しい。海に出かけることが多いのですが、いつもトランクに入れて行きます。

 

 

 

                 ブレインハッカー 第7章 修練(1)

 潮見から借りたBMWは快調に1号線を西に走り続けている。高速を使えば早いが万が一を考えて時間のかかる一般道を選んだ。やがて道は9号線へと入り、達夫にも見慣れた風景になってきた。実家には裏山から徒歩で行くしか方法はない。夕方まで隣町で時間を潰し、子どもの頃よく遊んだ山道を通り実家の裏に出た。裏口からすぐに家に入ることが出来たが安心は出来ない。盗聴マイクがどこかに仕掛けられていると考える方が自然である。

 儀策は二人を見つけると声を出しそうになったが、口に指を立てる仕草を見て声を抑えた。一部始終は先に帰った九旗紀夫から聞いて知っていた。黙って達夫を抱きしめ目に涙を浮かべた。達夫も目を潤ませていたが、のんびりはしていられない。家の外へ出るように促すと、一緒に裏山に上った。頂上はほんの少しだが、平らになっているところがあり、そこから町全体を見渡すことが出来た。

「ここなら大丈夫だ。おやじ、心配かけたね」
 と達夫は遠くの街の明かりを見ながら言った。
「大丈夫なのか………紀夫さんから生きていると聞いたときは嬉しかったが、これからが大変なようだな。戻ってきた訳は言わなくても分かる。いつでもいいぞ」
 と儀策は天空に登る満月を見ながら言った。
達夫も同じように月を見上げると、
「おやじ、今すぐだ。ここでやってくれ」
 と言った。

 儀策は黙ったまま満月を見上げていたが、そのうち小さな声でぶつぶつと呪文のような言葉をしゃべり始めた。達夫も今まで一度も聞いたことの無い言葉だった。その言葉が次第に熱を帯び、声に張りが出てきた。とても七十を超えた老人の声とは思えないほど力強く、周りにいる者を圧倒する。

 達夫は固唾を飲んでその言葉を聞いた。九旗家に伝わる修練の最後なのだ。この修練の伝授をもって酒呑童子の技は完成するのだ。達夫にも儀策がどれほどの力を持っているのか想像できなかった。家族の前で特別の力を見せたことは無かったのだ。地域では知恵者と言われ、困った問題が起きると最後には皆儀策の考えを訊きに来ていた。しかしそれは九旗家に伝わる修練とは関係がないように思っていた。

 儀策の体は満月に照らされ、柔らかい光を放っていたが、徐々にその光は青味を帯びて来るように感じる。それは月の光を反射しているのではなく、儀策自身の体が光を帯びてくるように見える。竜太郎は眼を丸くしピクリとも動かずに見ている。達夫は儀策の体から何かが伝わってくるように思った。何か分からないがとてつもなく大きなものの存在を感じるのだ。

 自然に眼を閉じその感覚に身を任せると、瞼の裏に光が見え始めた。最初は小さな点だったが、だんだんと大きくなり閉じた目の視野いっぱいに広がり始めた。体の感覚は無くなり、その光の中に溶け込みたい衝動を感じた。

 酒呑童子が子々孫々に伝えようとしたものはこれだったのだろうか。光の誘惑は益々強くなっていった。途轍もなく大きな存在感が達夫の体を包むように感じる。次の瞬間恍惚とした感覚に襲われると、達夫の体は宇宙空間に一人漂っていた。しかし、寂しさとか不安とかは一切感じない。ただ目の前には漆黒の空間が拡がり、足元には青く輝く地球が見える。達夫はその光景が幻でないことを確信していた。

 なぜだか分からないが、違和感も不自然さもなく、これは当たり前のことのように感じていた。はるか上空から見る地球は懐かしく、見覚えのあるように思った。もう一つ懐かしい感覚を覚えると側に若い男が浮かんでこちらを見ている。達夫にはその若者が酒呑童子であるとすぐに分かった。手を伸ばせば届きそうな距離にいて、何か話したいことががあると感じた。

 童子は穏やかな表情で達夫を見ている。そしてゆっくり手を動かし地球を指差した。達夫は足元に浮かぶ美しい星を見た。先ほどと違って見えるのは気のせいだろうか、やけに美しいのだ。油田の炎も、都市の明かりも見えない。暫く見ていると人間の活動と思われるような火がところどころに目立つようになり、やがて大きな火柱が見えると、きのこ雲が残った。達夫には人々のうめき声が聞こえた。童子はずっと指差したままである。小さな火はところどころに見えているが、そのうち地球の一点、日本の中心の辺りから緑が消えて茶色い地肌が見えてきた。それはまるで燎原の火が広がるようにほとんどの地域から緑が消えた。そして朝鮮半島から中国大陸へと広がり、瞬くうちに地球上のほとんどの地域に広がった。青い色を放っていた海の輝きも失せ、次第に濁りを増して黄河のように一面茶色の海となった。そして陸と海の境界が無くなり死の星になった。

 

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