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第6章 その(1) [小説 < ツリー >]

邪教・立川流

 

邪教・立川流 (ちくま学芸文庫) (文庫)

真鍋 俊照 (著)

 

                           第6章 その(1)

 片岡さんは、辺りの様子を窺っていたが、
「俺が様子を見てこよう、美緒は暫くここにいてくれ」
 と、言い残し歩き出した。
「気をつけてね」
 と、美緒は後ろから声をかけ、暫く車の中で何かを考えていたが、急にドアを開け、片岡さんの後を追った。

 片岡さんは隠れる様子もなく、堂々と道を歩き、家の前庭まで辿り着いている。美緒はこれ以上進むと、身を隠す場所が無く、近づけるギリギリのところで草の中に身を潜めた。

 家はかなり古く、瓦ではなく藁葺きである。ここに来るまでに一軒だけ藁葺きの家を見つけたが、人の住んでいる気配はなく、軒の木材が腐り落ちかけていた。目の前の家も、古さでは同じような感じだが、よく見ると所々修理をした後や、掃除された後も見受けられた。屋根は酷く痛んでいるようでもなく、形も整っている。これなら当分使うことが出きそうだ。もう少し手を入れ補修を施せば、保存民家として立派に通用するのではないだろうか、家の大きさから見てもただの農家の造りではないように見える。庄屋か、そこそこの立場の人が住んでいたのだろう。
 しかし、こんな人里離れた場所にあることが理解できない。それなりの立場の人が住むなら、もっと便利の良いところに住むだろうし、近くには農地など無く、山と山の間に渓流があるだけである。明らかに人目を避けるように建てられたとしか思えない。現代でさえ不便な場所なのだから、百年前なら尚更のことだと思う。

 片岡さんは庭に止めてある車のナンバーを見たり、車内を覗きこむようにしている。ここから見ていても、その動きは怪しく不審である。もし家の者に見つかれば、その理由を問い糾されるか、そうでなければ警察に通報されてもおかしくない。

 美緒の動悸が速くなってくるのがわかる。車を見終わると片岡さんは、縁側から中を覗きこむようにしたり、家の裏手に回ってみたりかなり大胆だ。しばらくすると、裏側から戻り、玄関に向かった。

「ごめん下さい」
 片岡さんは、ここまで聞こえるほどの大声で言った。言い終わる前には、入り口の引き戸を開け、顔を半分ほど中に入れて覗きこんでいる。返答がなかったのだろうか、片岡さんは更に大きく引き戸を動かし、片足は敷居を跨いでいる。

 完全に入りかけようとしたとき、中から引き戸が開けられ、若い男が顔を見せた。
<荒木!>
 俺は見間違いではないかと思ったが、やはり荒木だ。同好会の後輩で、行方不明になっている荒木だ。荒木がいるということは、行方不明の後の二人もここにいるのだろうか。

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タグ:立川流
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