SSブログ

第2章 その(2) [小説 < ツリー >]

死後の世界が教える「人生はなんのためにあるのか」―退行催眠による「生」と「生」の間に起こること、全記録 

死後の世界が教える「人生はなんのためにあるのか」―退行催眠による「生」と「生」の間に起こること、全記録 (単行本(ソフトカバー))

マイケル ニュートン (著), Michael Neuton (原著), 沢西 康史 (翻訳)

 

 

                           第2章 その(2)

「来たわよ、居る?」
 と、彼女は返事を聞く前に戸を開けた。中から、
「おう、はいれ」
 と太い男の声がして、俺は美緒の後からおそるおそる中の様子を見ながら入った。
古びた畳に安物の座卓があり、その上に大きなアルミ製のやかんが置いてある。粗末な集会所みたいだ。
 声の主は、五十半ばくらいだろうか、日焼けした顔に無精ひげが伸びていて、なにやら作業らしきことをしていた。
「紹介するわ、叔父で、片岡隆一、ここの神主よ」
 男は、「おう!」
 と言うと、人懐っこい笑顔で俺を見た。
「よろしく、田川祐介といいます」
 いきなり逢わされて、どう自己紹介していいか分からない、いったい彼女はどういうつもりなんだろう。こんな男に俺を逢わせてどうしようというんだろう。話の成り行きが皆目見当が付かない。
「君かぁ、毎晩桜の木に抱きついているのは」
「はい…そうですが…」
 いったいこの女は俺のことをどこまで話してるんだ。少し腹が立ってきた。わざわざこんな山奥にまで連れてきて………伊豆にドライブと言うから、少しは期待してきたのに、そんな気分が一気に萎えてしまった。
「どう?」
 美緒は俺を品定めするように男と俺を交互に見ながら聞いた。
いきなりそれは失礼だろうと思い、横目で美緒を睨んだがまるで気づいていないかのようだ。
「うーん、そうだなぁ、感覚は鋭いみたいだけどね、でも、大事なことは分かってないかなぁ、そうでなきゃ、あの桜の木に抱きついたりしないだろうと思うよ」
「大丈夫かしら」と、美緒がさも心配そうな表情で聞いた。
「まだそこまではいってないと思うよ」
 いったい何の話だか分からない。あの桜の木のことらしいが、勝手に大丈夫だとか何とか、この男のさも分かったような口ぶりはどうも好きになれない。
「いったい何の話ですか」と、わざと無愛想に聞くと、美緒が話し始めた。

「叔父さんはね、あの桜の木はだめだって教えてくれたの、紗英を死なすことになるって、最初は半信半疑で、まさかと思ってたわ。紗英には桜の木に近づかないように言ったけど、もう手遅れだったの。私がもっと早く叔父さんの言うこときいていれば紗英は助かっていたかも知れないの。だから今日あなたを此処に連れてきたのよ」

「そういうことだ、美緒の言う通りでね、俺がもう少ししっかりしてれば、あの子をしなせなくて済んだよ。どうにも悔しくて仕方がない。これ以上犠牲者を出したくないんだ」
「じゃぁ、俺は放っておくとあの桜の木に殺されてしまうんですか」
「その通りだね」と、男は自信ありげに言い切った。

 どうせこんな話だろうと思った。こうやって驚かせて、最後にはお守りを買わされてしまうに違いない。それも高価なお守りだ、どうやってその話に持ち込むのか、じっくり楽しみながら観察してやろう。どこかでボロが出るに違いない。こんな不釣り合いないい女が易々と俺の彼女になるはずがない。どこかで美緒を信用し自惚れていた自分がバカバカしく思えてくる。

 

創作小説ランキングサイトに登録しました。よろしければ下記リンクをクリックお願いします。http://www.webstation.jp/syousetu/rank.cgi?mode=r_link&id=3967


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0