第2章 その(3) [小説 < ツリー >]
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第2章 その(3)
「どうすればいいかしら」と、美緒が聞くと、
「そうだな、とにかく桜の木の側に行かないこと、それに尽きる。だけど、行ってしまうだろうね」
「それじゃ、答えになってないわ」と、美緒は俺の顔を見て不満そうに言った。
美緒は、俺も同じように考え感じていると思っているようだ。そんなバカな、と言いたいが、美緒の表情を見るとその言葉が消えてしまう。だまそうとしているのか、本気で心配しているのか分からなくなってくる。
「それじゃ、切り倒してしまえばいいでしょう」と、俺は心にもないことを言ってしまった。あの樹齢数百年の立派な桜の木を切り倒そうなんて考えられないのに。
「そんなことをしても無駄だし、もっと恐ろしいことになるよ、あの桜の巨木の力は半端じゃないからね」
男はそう言うと、俺の心を見透かそうとするような眼光を向けた。
「さっきから言ってる桜の巨木の力って、いったい何なんですか、俺には何のことだかさっぱりなんですが、それに、俺が桜に殺されるって話もさっぱりです」
俺は、思っていることを初めて口にした。もう、高価なお守りに話が行き着くまで我慢できなくなった。
「そうか、君はまだ知らなかったのか、てっきり美緒から聞いていると思っていたよ。だったら分からなくて当然だね、誰だってこんな話を聞けば疑いたくなるさ」
男はそう言うと、やかんからお茶を注ぎ足して入れた。どう話せばいいのか迷っているようにも見える。
「どう話したって、俄に信じられる事じゃないと思うけど、巨木というのは、当然数百年という長い年月を暮らしてきた生き物で、知性はもちろんないけど、感情に似た働きはあるんだ。
感情というと、人間みたいだけど、それとは違ってもっと大雑把な感じといえばいいのかなぁ。その感情に似たものが年月を経て人間に何らかの影響を与えることがあるんだ。もちろんその逆もあるけどね、よく植物人間なんて言い方するけど、あれは人間にも、植物にも失礼な言い方だよ。
まぁ、とにかく生き物としては、人間よりも遙かに戦略的に生きていると思うね。で、問題はその感情の部分なんだ。ほとんどの巨木はおおらかで優しいものさ、でも、ごくまれに人間にとって害になる場合がある。それがあの桜なんだ。なぜそうなのか、詳しいことは分からないが、でも原因はある。それは君には関係ないから話さないけどね。原因はどうあれ、今の君は桜の木に魅入られている状態なんだよ。
この状態を続けることはとても危険なんだ。君には分からないだろうけどね、でも現実に紗英は死んでしまったし、他にもあの桜のせいで亡くなった人は何人もいるんだ。あの桜は間違いなく、人を死に誘い込んでしまう魔桜だよ」
隆一は話し終えると大きく息を吐いた。
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