第2章 その(4) [小説 < ツリー >] [編集]
ショートなレインシューズ
第2章 その(4)
「叔父さんはね、神主の世界では一番下っ端で貧乏神社だけどね、神主の資格の他に樹医の資格も持っていて、それで、全国の巨木を診て回っているの。そこで巨木にまつわる色んな出来事を経験してるの。聞けば、不思議なことばかり。でも叔父さんの話は決して迷信なんかじゃないの、本当の事よ」
美緒の真剣な顔が素敵だと思う。そんなに言わなくても信用したと、表情や目で返事をしているのに気づかないのだろうか。
「とにかく、あの桜に近づかなければ俺は大丈夫なんですね?」
「もちろんそれが出来れば大丈夫だけどね、でもそれほど簡単じゃないって言っただろう」
「もちろんそれが出来れば大丈夫だけどね、でもそれほど簡単じゃないって言っただろう」
何が難しいのかわからない、俺が夢遊病のようにフラフラと行ってしまうとでも思っているのだろうか。
「どうすればいいんですか?特に何か悪いことをしたとか、身に覚えはないんですが」
「君が悪い訳じゃないよ、ただ、その、例えば、波長が合ったようなものだからね」
「どうすればいいんですか?特に何か悪いことをしたとか、身に覚えはないんですが」
「君が悪い訳じゃないよ、ただ、その、例えば、波長が合ったようなものだからね」
「ハチョー?ですか」
「そう、よく言うだろう、あいつと波長が合うとか合わないとか、その波長だよ。これはねぇ、俺の感覚的な言い方だからわかりにくいかもしれないけど、多くの巨木に接するとそれぞれ違った感じ方をするんだ。
大抵は病んだ巨木なんだけどね、しばらく手を触れていると、掌を通してふっと感じるものがあるんだ。気の流れに近いものかもしれない。希に、さっき言った感情に似たものとして感じるときがあるんだ。
そうだなぁ、例えるなら、君の前に哀しみの感情を露わにした人が突然現れるとする。すると君の心は自分の意志とは関係なく反応して、君の中から哀しみの感情が引きずり出されてしまう。
生き物とはそういうもので、考える前に相手に感応してしまうものなんだ。そういうことが巨木と人間の間にも希に起こることがある。そういう場合は十分に注意する必要があるんだ。
まぁ、そういう巨木も希なら、そんな感性を持ち合わせた人間も希だけどね。幸か不幸か、俺も祐介くんも
その希な方だね、そして紗英もね。
あの魔桜は希な中でも特別な奴で、どうも、波長の合う人間を引き寄せてしまう力というか、働きがあるようなんだ。そうでなきゃ、紗英は死ぬことにはならなかったよ。だから、祐介くんだって、自分では近づかないように思っていても、そんな自分の気持ちなんて危ういもので、夜目覚めると全く別の気持ちが動き出すことだってあると思うよ。
自分の心を操れる人間なんていないよ、ほとんどは操られているんだよ。でも誰もそんなことには気づいてなくて、自分の心を自分で支配してると思いこんでいるんだ。断言してもいいね、君は夜になると、固く行かないと決めていても、吸い寄せられるように行ってしまうよ」
聞けば聞くほど気が滅入ってくる。これじゃぁ、俺は救いようがないって言われたように聞こえる。でも確かに、あの桜の木が俺のお気に入りの場所になってから調子が狂ってきたように思うし、あの桜の木を知らなかったら留年なんてしなかっただろう。全てはあの桜のせいなのか………
「まだ間に合うんでしょう、どうすればいいの?」
美緒は俺以上に俺を心配しているように見える。何でこんなに心配してくれるのかわからないけど、これはこれでなんだか心地いい。
「もちろん間に合う。紗英の二の舞にはしない。ただ、俺を信用して言うことを聞いてくれないと難しい」
男はそういうと、俺を睨んだ。
俺には大袈裟に聞こえるが、従った方が良さそうに思える。それに、この隆一という男がだんだん気に入ってきた。
「正直、まだ半信半疑ですけど、任せます。」
「正直、まだ半信半疑ですけど、任せます。」
そういうと、急に心が軽くなったような気がした。この隆一という人も、人を引き寄せる不思議な力を持っているような気がする。
「祐介君、三日ほど、ここに泊まれるかい」
「ここですか?」
「そう、この部屋だよ、まぁ、汚いけど自炊も出来るし必要な物は揃っているよ」
俺は部屋をを見回してみたが、物が揃っているようには思えなかった。だけどもう仕方がない。
「ここですか?」
「そう、この部屋だよ、まぁ、汚いけど自炊も出来るし必要な物は揃っているよ」
俺は部屋をを見回してみたが、物が揃っているようには思えなかった。だけどもう仕方がない。
「わかりました、でもここで何をすればいいんですか?」
「することなんか、何にもないよ、この貧乏神社に来る人はいないしね、まぁ、気が向いたら境内の掃除でもしてもらえばいいよ、それで全部タダ」
男は愉快そうに笑った。
男は愉快そうに笑った。
こんな顔で笑える人なら信用できるかも知れない。大きな口を開けて笑う人を久しぶりに見たように思う。俺はこの人の泣き顔を想像してみた。きっと同じように大きな口を開けて泣くのだろう。
海族……、美緒の言った言葉を思い出した。海洋民族のことだろうか。海に特別な郷愁を感じる人だと言った。この人と海とはどんな関係なんだろう。
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