第5章 その(33) [小説 < ツリー >]
体外離脱を試みる (単行本)
ロバート ピーターソン (著), Robert Peterson (原著), 越宮 照代 (翻訳)
第5章 その(33)
玄関チャイムが鳴り、片岡さんがやって来た。
「大丈夫か?」
片岡さんが、心配そうに尋ねると、
「ええ、大丈夫よ、今はね、私の中に入っているの。祐介君との会話はこの五十音表でできるわ、試してみる?」
美緒はそう言うと、先ほど使った表を見せた。
「じゃぁ、祐介君に訊いてもいいかな、その、可奈子って女の子と入れ替わった場所は魔桜のところ?」
「はい」
可奈子の指は滑らかに動き、俺の返事を正確に伝えてくれる。
「その子の顔を見た?」
「見てない」
と、返事をすると、片岡さんはそれ以上質問するのをやめ、腕組みをしながら、俯いてて考え始めた。テレビがつけっ放しで、そこから笑い声が聞こえる。美緒はテレビの方に目を向けているが、見ているわけではない。美緒の中に広がる不安感が俺にも伝わってきた。
片岡さんは、顔を上げると、
「やられたかも知れない」
と、厳しい目をして言った。お祓いをしたときの、あの目と同じだ。
「やられたって、じゃぁ、可奈子さんじゃないってこと?」
美緒は、不安が的中したように言った。
「まずそうだろう、祐介君の一番弱い弱点を突かれたんだと思う。魔桜が出てきたね」
<可奈子が偽物だって? そんな馬鹿な! そんなことはあり得ない。だって、可奈子はずっと俺の記憶の中で生きてきたと言ったし、身体は返すと約束してくれた。あの話が全て嘘なんて信じられない>
俺は美緒の中で叫んだが、その声は片岡さんには届かない。その俺の声を代弁するように美緒が訊いた。
「でも、顔を見ていないだけで偽物と決めつけて大丈夫かしら、何か確かめる方法はないの?」
美緒は俺の言いたいことをストレートに言ってくれた。
「うん、そうだな、確かめる必要はあるかも知れないね」
片岡さんは、また腕組みをして考え始め、相変わらずテレビは、お笑い番組を放送しているようで、大きな笑い声が部屋に響いた。
「コーヒーでも入れるわ」
美緒はそう言うとキッチンに行った。
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