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第1章 遭遇(2) [小説<物体>]

                                    第1章 遭遇(2)

 さて、どうしたものかとその物体を見下ろしながら考えた。誰かが捨てたものか、それとも近くに住むアーティストが自然の中にオブジェとして意図的に置いたものか、或いは落とし物なのか。やはりそのどれもが決定打を欠いているように思う。

 何事もなかったように此処を立ち去りラーメンを食べて帰る。一度はそうしようと歩きかけたが何か心に引っかかるものがある。俺は急いで戻ると傘を畳みその物体を両手で抱え上げた。取っ手を持てば片手でも持てる重さだがそれでは歩きにくい。仕方なくお腹に乗せるようにしながらマンションまでの道を歩いた。途中で誰に会うこともなく辿り着いたが、傘は畳んだままでずぶ濡れになってしまった。

 俺は物体と一緒にシャワーを浴び綺麗に汚れを落とすとリビングに運んだ。部屋の真ん中にドンと置き、もう一度丹念に調べようと思ったがどこか感じが違う。気のせいだろうか、色の感じが明るくなったように思う。きっと汚れが落ちたせいに違いない。俺は顔を近づけて丹念に観察をした。自然のものでなければどこかに人の手の加わった痕跡があるはずだ。しかし、どう調べてみてもそのような感じは見あたらない。それに一体この物体をどう置けばいいのか……。取り敢えず鬼の角のような突起のあるところを上にして置いてみたが、これでは上に物を乗せることも出来ず何の役にも立たない。持ち帰ったことを少し後悔し始めた。

 押し入れからプラスチックハンマーを取り出して軽く叩いてみたが、所々反響の違うところがあるだけで、中がまるで空洞という感じの音ではない。これでは埒があかない。手持ちの工具を集めて前に並べて置いた。糸鋸、金槌、釘、ネジ、ドライバー、電動ドリル、ガスバーナー。まるでこれから手術をするようだ。

 まず、鬼の角のようになったところに金属用の糸鋸を当てて軽く引いてみた。しかし刃先はつるつると滑るばかりでどこにも引っかかるところがない。強く押し当てて引いても同じで、文字通り歯が立たない。釘を打ち付けたりドリルを当てたり、次々に試して見たが結果は全て同じでどうにもならない。

 残った道具はガスバーナーだけである。これなら、金属はもちろんガラスだって溶かすことが出来るし、表面の塗料などはひとたまりもなく変色するはずだ。慎重に着火してノズルの火炎を調節した。青白い炎が音を立てて吹き出している。遠くの方から火炎を当ててみたが変色する様子もなく何の変化も見られない。木材ならこの程度で簡単に火が付いてしまうだろう。もう少し近づけ一番温度の高い部分の火炎を当ててみたがやはり結果は同じで変化なし。思わず火炎を当てていたところを触ってしまい指先はジュッっと音を立てて焦げた臭いを漂わせた。
「くそ!」
 この部屋にある道具は全て使った。それでもこの物体の正体が分からない。それどころか謎は深まるばかりだ。

 

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