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遭遇(3) [小説<物体>]

                               遭遇(3)

 俺は物体を前に腕組みをして考え込んでしまった。何でもいいから答えが欲しい。それが間違っていようが、荒唐無稽であろうが構わない。とにかく誰かにこれはこういう物だと断定して欲しい。自分で断定すれば心のどこかで否定的な考えが浮かんでしまう。自分以外の人間が自信を持って断定してくれれば安心できるし、もし間違っていても断定したのは自分では無いのだから自分を責める必要もない。

 誰か友だちを呼んで見て貰おうと思ったが、断定してくれそうな奴が思い浮かばない。例えば川原ならきっとこう言うだろう。
『「近所に君のことを快く思っていない奴がいるに違いない。それでわざと君の目に付くようにあの場所に置いて持ち帰らせたのだよ。それは君の行動をよく観察して熟知している奴だろう。この物体が何かなんて事よりもそっちの方がずっと重要だと思うよ』
 とまぁ、こんな感じだ。
岩田ならこう言うに違いない。
『君がその物体を黙って持ってきたとしたら大問題だよ。まず土地の所有者に確認することが先決だね。所有者不明なら警察に連絡する必要がある。物体が何であろうと、重要なのは所有権だね』
 これじゃ話にならない。
小池ならどうだろう。
『この物体の色彩は実に見事で六十年代のアメリカを彷彿とさせるね。俺たちが生まれる前の良きアメリカの文化、サイケデリックそのものだと思う。ヒッピーカルチャーを現代に蘇らせているよ。これを描いたのはおそらく暗い室内でピンクフロイドのサウンドに酔いしれながらLSDをやってる危険なアーティストだろう。こんな物体と関わるのは止めた方がいい』
 そう言って元に戻すよう諭されるのがオチだ。

どの友だちも色々分析したり講釈を並べ立てるのは得意そうだが、何の解決にもならないだろう。となれば……祐子しかいない。祐子はいつも的外れなことを言っては俺を呆れさせ、この物体と同じように正体が分からない。この前二人で散歩をしたときに突然空を見上げて、
「ねぇ、空の上に何があるか知ってる?」
 と訊くから、
「そりゃ、宇宙だろう」
 と答えると、
「残念、ハズレ。思った通りだわ。宇宙なんて言うのは幼稚園児の言うことよ。空の上にはねぇ、大きな食パンよ、地球より大きい食パンがあるの」
 と、祐子は嬉しそうだった。
「幼稚園児が食パンで大人が宇宙だろう?」
 俺が言ったら、
「だから謙太は世間知らずなのよ、今時の子どもで空の上に食パンがあるなんて言う子いないよ。ビッグバンだって知ってる。だから謙太の頭脳は幼稚園児並みね」
 と笑われてしまった。いつもこんな調子だからウンザリすることもあるが、驚くほど鋭い感性も持っている。きっと祐子なら断定できるだろう。

 

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