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大江山伝説(5) [小説 < ブレインハッカー >]

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                        大江山伝説(5)
            
 熱いお茶をすすりながら聞いていた潮見が訊いた。
「人類の脅威というのはどういうことですか。東京へ来るまでに静恵さんから聞いたのは、たしか、酒呑童子たちは相手の脳に侵入して思考や行動を思うがままにコントロールする能力があるということでしたがそのことですか」
「ええおそらくそれに近いことだと思います。私の家に伝わっている話では思考をコントロールすると言うよりもむしろ、感情をコントロールすると言った方が正確かもしれません。相手の脳に隙を作りその間になんらかのスイッチを入れるようなことをするそうです。

 例えば憎悪に満ちて今にも自分を斬り殺そうとしている相手に対して、一瞬の隙さえ作ることが出来れば、満ち満ちた憎悪を跡形もなく消し去り、極端なことを言えば自分に対して愛情さえ抱かせることが出来たと言うことです。しかもそれは催眠術のようなものではなく、その感情そのものは本物だと言うことです。また逆に相手に憎悪と敵意を抱かしその気持ちを向ける相手を特定することも可能と聞きました。これらを一瞬の間にしかも言葉を介さず行うことが出来るのです。ただしこれは目と目が合わせられる範囲の人間に限られ、有効時間も短くて次の眠りまでの間だったようです」

「するとお兄さんもそんなことが出来たと言うことですか」
 と潮見が驚いたような顔で聞いた。
「もしかしたら出来たのかもしれませんが、はっきりとは言いませんでした。でも不思議な力はありました。兄は中学生の頃からあの地域では有名な名医で、大抵の病気は兄にかかれば面白いように回復させることが出来ました。回復しない人もありましたがそれは兄よりも相手に原因がありました。中学生の兄を百パーセント信頼出来なかったんです。高校生になると次第に人が来なくなりました。直らなくなったんです。そのかわり兄の高校生活は充実し思い通りの生活を送っていました。少なくとも私にはそのように見えました。もしかしたらそのような力があって、今度は自分のために力を使っていたのかもしれません」

「出来たとしても、それはお兄さんの特殊な能力だから、研究したところで誰でも出来るようになるとは思えませんが、どうですか」
 と潮見が訊いた。
「そこが私にもよく分からないんですが、でも代々受け継がれてきた修練によれば能力の違いはあってもある程度は身につけることが出来ますから、その秘密を解明すれば能力を開発したり、伸ばしたりすることは可能と思います。でもとにかく今は少しでも多く相手の情報を集めることです」
紀夫がしびれを切らしたように、
「奴らにかて弱点か何かあるやろ」
 と言うと、昭彦は、
「ええ、一つあります」
 と声を小さくして応えた。
「そらええこっちゃ、で、なんやその弱点は」
 と嬉しそうに言った。
「奴らは兄と私のの居所を知らないことです」
 昭彦の分かり切ったような答えを聞いて、
「それがどうして弱点なんや、こっちかて達夫さんの居所わからんのは同じやろ」
 と紀夫はそんなことかというようながっかりした表情で言った。
「いや、これがうちらの切り札なんです。ジョーカーを持っていると思わせて奴らを慌てさせることが出来ると思います。奴らが必死に兄を捜すということは、そこに弱点があるからなんです。ただそれが何かは具体的には分かりませんが。」
「うーん………」
 と紀夫は考え込んでしまった。
「お兄さんに会ったとき何か言わなかったの」
 と静恵が聞いた。
「行方不明の米軍兵のことや、研究所のことは聞いたけど、証拠があるようなことは聞かなかった。ただ逃げろ、警察も何も信用するなとしつこく言っていたよ」
 静恵も紀夫と同じように考え込んでいたが、
「もしかしたらお兄さん自身も、奴らが何を恐れているのか知らないのかもよ。でもきっと何かあるに違いないわ。奴らはお兄さんがそのことに気づく前に消そうとしているのよ。ねえ、本当にお兄さんの居場所分からないの」
 と静恵は昭彦に咎めるように聞いた。
「本当に分からないんだ。ただ、今の日本で奴らの目から逃れる方法は浮浪して常に居所を変えるような生活しかないように思うよ。だから俺もこうしているんだけどね」
 と昭彦が言うと、黙って聞いていた村木が口を開いた。
「私が仲間に聞いてみましょう。こんな生活でも長くやっているといろんな連中と知り合いになってね、それなりにネットワークがあって、行方不明者を捜すのはそれ程難しくはありませんよ。この世界のことだったら警察以上ですからね。実を言うとこれが結構お金になりましてね、新聞の尋ね人探しをするんです。この世界には訳ありな人も多いですからね。人間は秘密を誰かに言いたくてしょうがない生き物だから、この世界の人間同士だと話してしまうんですよ。自分のことを必死に捜してくれる人がいれば、どんな理由があったにせよ元の世界に戻った方がいいんです。金のためというより私は人助けのつもりですけどね」
 昭彦は、
「そんな方法があったんですか」
 と驚きと、そんなことが出来るならもっと早く言ってくれれば………と複雑な気持ちで言った。
「君が兄を捜していることは知っていたけど、実は少し気になることがあってあまり気乗りしなかったんだ。黙っていて悪かったけどね」
「気になることって何ですか」
 と静恵が不安げに聞いた。

 

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