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第2章 その(11) [小説 < ツリー >]

モーツァルト:交響曲第39番 

モーツァルト:交響曲第39番

~ ニューヨーク・フィルハーモニック (アーティスト, 演奏), モーツァルト (作曲), ワルター(ブルーノ) (指揮)

 

                                            第2章 その(11)

 あの桜の木には恐ろしいモノが宿っていると言っていい。その正体ははっきりしないけどね。そんなこととは知らず、君はあの桜の姿に惚れ込んでしまった。惚れ込まされてしまったという方が正しいかも知れないけどね。で、惚れ込むと言うことは、精神的にはかなり無防備な状態で、相手に対して全てをオープンにしているんだよ。そして君は知らず知らずに恐ろしいモノを心の中にコピーし宿してしまったと思う。
 これほど言われても、まだ君の心は桜の木に惚れ込んでいると思うよ。まるで乳飲み子が母を慕うようにね」
 
 片岡さんはまた大きな声で、「タック行くぞ」と叫んだ。
美緒はテキパキと動き船はスムーズに向きを変えた。舵さえ動かせば、好きな方向に行けるのかとおもったら、方向を変えるだけでもたくさんのロープを緩めたり絞ったりしている。これを間違えると動きが止まったり、時には横転するようなことにもなるらしい。
「お祓いって出来るんですか?」
 俺は婆さんの言っていたことを思い出して聞いてみた」
「おう、出来るよ。でもな、この手のお祓いはやったこと無いんだよね」
それはないだろう、人をその気にさせて置いて、いきなり階段を外されたような気分になってしまう。この人は本当に信用していいのか分からなくなってきた。嘘でも、
<俺に任しておけ>
 くらいのことは言って欲しい。

「頼りない神主さんね、大丈夫かしら」
美緒はそう言いながら、片岡さんの顔を覗きこむように見ている。
「お祓いって、本当に効くんですか?」
俺は一番気になっていることを聞いてみた。
「神主に向かってその質問は許せん……と言いたいところだけど、実のところ分からん。確かめようの無いことがほとんどだからね。何事もなかったから効いたと思う人はいないだろう」
「でも、やってみるんでしょう」
「ああ、一応そのつもりで、三日間居てもらうことにしたからね」

 美緒は俺の方をみて、安心しろとでも言うように頷いて見せた。
「自分ではあんな事言ってるけどね、叔父さんのお祓いは評判いいのよ、叔父さんが凄いのか、絹恵婆さんが凄いのか、そこのところは分からないけどね」
「あの婆さんもお祓いするんですか」
 俺はあの婆さんの怒った顔を思い出しながら聞いた。
「ああ、あの婆さんがいたほうがいいんだよ、特にこんな場合はね。相当君を嫌がってたけどね」
「いつにするの」
「明日のつもり、実は婆さんも強力はしてくれるよ、めっちゃ悪態つかれたけどね、でも俺の頼みは断れないってさ」
片岡さんはまた面白そうに笑った。この人はつかみ所がない。どこまで本気でどこまで冗談なのか分からない。だが、もうそこまで段取りしてあるのは心強く感じた。

 

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