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ツリー 第3章 その(1) [小説 < ツリー >]

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                            第3章 その(1)

 予想外に長くなった伊豆ドライブから帰ると、部屋の中は綺麗に掃除がしてあった。持ち忘れた携帯の下に加代子の手紙が置いてある。

『祐介さんへ
   

     いつものことだけど、何度連絡しても返事がないので来たよ。

     夜には帰るかなって思ったけど……どうしたの。

      布団を干して、洗濯もしておいたからね、乾いたらすぐにしまうように。
     冷蔵庫の中にカレーを作って置いたから、暖めて食べて下さい。
  
   帰ったらすぐに連絡してね。

 追伸
      あの場所へ行ってみました。この前は辺りの様子などわからなかったけど、

      昼間見るとあの桜、素敵だったよ。
     

      桜の木に抱きついたら、この前のことを思い出しました。
      また、一緒に行こうね。
              
                                                                     加代子 』
 
  加代子らしい手紙だ。完璧だと思う。これじゃぁ、文句のつけようがない。あの場所へ一人で行ったことが気にかかる。

 冷蔵庫を開けると、手紙に書いてあったようにカレーが置いてあり、暖めて食べた。普通のカレーだが美味しい。大学の友だちで加代子ほど料理の出来る女はいないと思う。伊豆で美緒の作ったカレーを思い出した。もしかしたら、同じ頃に美緒と加代子は俺のためにカレーを作っていたのかも知れない。

 加代子とは4年近い付き合いがある。俺のことは誰よりも加代子が一番知っている。この俺よりも俺を知っているのだと思う。美緒とは知り合って十日足らずだが、誰よりも深いところで共鳴するものがある。それが何なのか掴み所がない。

 携帯が鳴った。加代子だと思い、しばらくそのままにして置いたが、美緒の顔が浮かぶと慌てて携帯に手を伸ばした。美緒ではなかった。<矢島かぁ>
 高校の時からの友だちで、大学は一緒だが学部は違う。それほど頻繁に顔を合わせることはないが、気心は知れた間柄だ。久しぶりに携帯に名前を見た。

「おう、久しぶり、最近顔見ないけどどうした?」
 矢島の声を聞くと、高校時代にタイムスリップしたような気分になる。俺がキャンパスに行ってないことを知ってるのだろうか。
「3ヶ月ほど行ってないからね、留年決定だよ」
「やっぱりな、そんなことだろうと思ってたよ。祐介の同好会はこの3ヶ月で解散状態だよ、メンバーが次々に来なくなったの知ってる?」


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