第3章 その(2) [小説 < ツリー >]
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第3章 その(2)
「いや、知らないけど、なんで」
「何にも知らないんだなぁ、お前の彼女何か言ってなかったか?……大学でちょっとした噂になってるよ、地方の親からも大学に連絡があって、教務部が色々訊いて回ってるよ。祐介のところにも連絡なかったか?」
「いや、何もないよ」
そう言えば、何週間か前に、大学から着信があったかも知れない。郵便物はそのまま開封しないで何通か置いてあるのを横目で見た。
「三人行方不明になって捜索願も出てるらしい。今のところ事件性は無いらしいけど、学内の掲示板にも貼りだしてあったよ。それが全員祐介の同好会だろう、他のメンバーは一応確認取れたらしいけど、調べたら、やっぱり祐介みたいに大学に来なくなった奴が多いらしい。行方不明は、荒木と下田と田島の三人だけど、何か知らない?」
全員二年のメンバーだ。暗闇同好会に入会して一年足らずだが、冗談半分で始めた同好会が、なにやら本格的な趣が出てきたのはこの三人の逞しい想像力に依るところが大きい。
「悪いけど、何も知らないなぁ、俺はほとんど部屋にいたよ、メンバーとも連絡取ってないし………」
いつだったか、朝出かけるときに、加代子が同好会のことを俺に訊いたのを思い出した。きっとこのことだったのかも知らないが、加代子はそれ以上何も言わなかった。俺の状態があまり良くなかったから言えなかったのだろう。
「そうか、お前も知らないのか………ところでさぁ、この前彼女から電話があったぞ、祐介が来てないかって。お前が四人目かと思ったぞ、どこ行ってたんだよ、彼女心配してたぞ」
矢島は、俺と加代子が前と同じように付き合っていると思っている。俺は加代子の完璧で理想的な彼氏だったのだ。ここ何ヶ月かの変化を知らない。
「いやちょっとね、しばらく出かけた」
「彼女に黙って出かけた?連絡も取れないって言ってたぞ、そうだ、久しぶりに出てこいよ、友だち呼んでおくよ、下北辺りでどうだ?」
下北沢か……矢島とはかなり会ってないし、大学のことも、同好会のことも訊きたい。
今までと違って、人と会うのが苦痛でなく思えるのは……不思議人間マジック矢島か。
「じゃぁ、久しぶりに行くか」
矢島は高校時代からそういう奴だった。人の心を瞬時に変えることが出来る奴だ。だからあいつはいつも数人の仲間に取り囲まれるようにしていたし、いつも楽しそうだった。
心の中では<うるさい奴らだ>と反発を感じていたが、その仲間が羨ましくもあった。
矢島が俺に声をかけてきたのは文化祭の準備で忙しくなった頃だった。
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