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変化(2) [小説<物体>]

                                変化(2)

 早めに仕事を切り上げて帰ると、祐子は新品のケージの中に物体を入れて眺めている。丁寧に毛布まで掛けてある。
「どうだった?」
「少しくらい動いたり変化するんじゃないかと思ったけど変化なしね」
 そう言いながらケージの隙間から指を入れて頭の部分を小突いている。
「俺も一日中こいつのことばかり考えていたけどさっぱり分からないね、まさかロボットなんて事はないよね。ロボットだとしたら地球のモノじゃないし、生き物でも地球上のモノじゃないよ」
「ロボットでも宇宙人でもないわ、マーブル君よ。私のマーブル君よ」
 祐子は物体に話しかけるように言った。一日付き合っただけでもう母親気分になっている。
「もしかしたら夜行性かも知れない。夜の間に変化するんだろう、あんまりいい気はしないけど今夜は早めに寝て注意深く観察して見るしかないね」
「いいわ、寝る子は育つって言うしね」
 祐子は楽しそうだが、俺はそんな気分にはなれない。得体の知れない物体が夜の間に形を変えて人間のようになる。まるでホラー映画の主人公にでもなった気分だ。

 食事の時も祐子は、焼き魚の切れ端を物体の前に置いたり話しかけたりしてまるでペットのように扱っている。しかし物体は何の変化も動きもなくただケージの中で横たわったままだ。こうして見ていればただの人形のような物体で恐ろしくも何ともないが、しかし暗くなるともぞもぞ動き出して形を変えるのだろう。あの物体の中に何かが宿っている事は間違いない。それは命と呼べるモノなのだろうか。この地球上には想像を遙かに超えるような生物がいることは事実だが、それは深い海底だったり未知のジャングルだったりする。こんな身近なところにいるはずがない。それとも遠い遙か彼方の宇宙空間から舞い降りて来たのだろうか。

 祐子は物体をケージから出して一緒に風呂に連れて行き洗いたいと言ったが、さすがにそれは止めさせて寝ることにした。寝ると言ってもまだ時間は早く、横になって部屋を暗くするだけである。そうして物体の様子を観察するのだ。俺はいざというときのためにハンマーをベッドの横にそっと忍ばせ、祐子は俺のベッドには入らず、ケージの横に布団を敷いて横になった。

 時々祐子は物体の名前を呼んだり、手を伸ばして触ったりしているが、暫くすると静かになった。あれほど一晩中見ていると張り切っていたのに他愛もなく眠り込んでしまった。まるで子どものようだ。俺は仕事の疲れもあって何度か強い眠気に襲われたが物体が気になりなかなか眠れない。俺が眠る込むのを待って物体は形を変えケージを破って出てくるような気がするからだ。頭の中で恐ろしい妄想が膨らんでいく。祐子はすでにあの物体に侵されているのではないかとか、俺もすでに気がつかないうちに物体に操られているのではないかとか思い始めてしまう。
 物体は何一つ変わったことはなく、物体のシルエットはピクリとも動かない。だんだん眠気に抵抗出来なくなり意識が薄れていった。

 

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