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悪夢(14) [小説<物体>]

                                  悪夢(14)

 マー君と早苗ちゃんの声の録音はすぐに終わった。マイクロ波で産業技術研究所に送れば二日で詳細な分析結果が出る。工藤健二老人が言うには、おそらく可聴周波数を超えた帯域に秘密が隠されているらしいとのことだった。プラーナの動きにも関係しているようで、その帯域の振動数がプラーナを共振させて活性化させるのかも知れない。生命現象は振動数と何かしらの関係があるのだろうか。

 研究員はそれぞれ自分の部屋に戻り、研究室には俺と健二老人だけが残った。俺は昼の間に作った拠点マップを拡げて眺めた。地図上に拠点をマークし、その周囲の情報を知り得る限り記入してある。黒の×印はオロチの目撃されたところで、赤の×印はオロチの犠牲者が出たところである。行くなら拠点の近くでオロチの目撃されていないところがベストだが、良さそうなところは見当たらない。拠点の無い地域はプラーナの密度が薄く、今も混乱状態の中で殺戮が繰り返されているかも知れない。大きな公園でもあれば樹木も多く、まだ生まれていないオロチを見つけられるかも知れないが、リスクも高い。それに若い研究員が可能性を示唆した第三の物体も気になる。
 マップで緑の多いところを探すと、明治神宮と新宿御苑と皇居が近くにあった。そのどれも拠点からは離れているが樹木は多い。

「皇居がいいだろう。ただし、あそこの情報は一切無い。人が居るかどうかも分からないし、中がどうなっているかも分からない。だが人は居ない方が好都合だろう。オロチだけに注意すればいいからな」
 工藤さんはそう言って地図の上を指さした。確かに緑はどこの公園よりも多い。やや距離はあるが、拠点に沿うように行けばなんとかなりそうだ。そのルートをよく見ると、途中に自衛隊の駐屯地を見つけた。
「自衛隊の駐屯地の情報は手に入りますか?」
 俺が訊くと、工藤さんも同じことを考えたようで、
「応援部隊か………戒厳令本部なら分かるだろう」
 と、専用回線を繋いだ。小山大臣が出ると、すぐに全面的に支援すると答え、市ヶ谷の駐屯地に連絡してくれた。駐屯地は参謀の半数は連絡が取れず、方面部隊との連絡は絶えたままだという。いわば指揮官だけがいて、動ける部隊は皆無だという。本来なら本部を支え作戦を展開すべき部署だが、今はその能力はない。しかしそれでも武装した兵士を数名なら俺たちに同行させることが出来、明朝6時には正門前でスタンバイさせているとのことだった。

「丸腰で行くよりはいいだろう」
 工藤さんは通信機のスイッチを切ると、独り言のように言った。静まりかえった研究室の中で俺は地図を睨み、工藤さんは天井を睨みながら何かを考えているようだ。

「第三の物体ってなんですか?」
 俺は若い研究員の言葉が気になり、工藤さんに聞いてみた。

 

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