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計画(7) [小説<物体>]

                                       計画(7)

 気のせいだろうか、周りの風景が蜃気楼のように揺れている。自分が目を開けているのか閉じているのか分からない。瞼を動かせばすぐ分かることだが、閉じようとしても開けようとしても瞼が動かない。確かに景色は見えているようだが、それは見慣れた景色ではなく、数種類に色分けされた画面を見ているようだ。青に緑に白、茶色にクリームなどの色がグラデーションのようになって混じり合っている。それぞれの色は大きくなったり小さくなったり、明るくなったり暗くなったりまるで生き物のように感じる。
 さっきまで見えていた工藤さんも、マー君や早苗ちゃんも見えない。それどころか自分の手も足も見えない。光だけの世界だ。だけど近くに皆がいるのは分かる。これが工藤さんの言う<ある領域>なのだろうか。
 身体の感覚を失ってしまったようで、声を出そうとしても身体は何一つ反応しない。金縛りのようだが恐怖感はなく、むしろ何かが解放されたような感じがする。心地よくて暖かい。懐かしい故郷に浸っているような感覚で満たされる。数種類に見えていた色は混じり合いながら透明になり、視野の中心がとても輝いて見える。

「僕たちの命だよ」
 突然マー君の声が聞こえた。
「え、僕たちの……命?」
 自分の声も聞こえるが、それは中心の輝いたところから聞こえているようだ。
「そうよ、私たちみんなの命ね!」
 早苗ちゃんの声も中心から聞こえる。とても嬉しそうだ。
「工藤さん、聞こえますか?」
「ああ、聞こえる。驚いたよ、この年になってやっと自分の命の秘密が分かりそうだ」
 工藤さんの声も、早苗ちゃんのように嬉しそうだ。しかし俺には何がどうなっているのか理解できない。
「謙太は相変わらずね、理解しようなんて無理よ、まず受け入れるの、頭じゃ無理よ、分かった?」
 祐子の声だ。
「どうすればいい?」
「何もしなくていいよ、輝く光を見ているだけでいい」
「わかった」
 言われたように中央の光を見ていると、微妙に変化しながら大きくなっているような気がする。それにプラーナに似ているようにも思う。<これが命の正体?>見ているとついつい頭で考えてしまう。習性だ。受け入れるというのは意外に難しい。

「用意はいいかい、始めるよ」
 栄二君の声だ、何を始めるのだろう。中央の光が輝きを増してきた。
「よし!」
 栄二君の声を合図に、強烈な光が矢のように四方に広がり、突然視野が開けた。空から地上を見ながらもの凄い速度で飛行している。まるでスーパーマンだが、姿勢を上手くコントロールできない。フラフラしながら飛んでいると、隣に祐子とマー君が飛んできた。
二人とも俺よりずっと上手い。 

 

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