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計画(8) [小説<物体>]

                      計画(8)

「どうやればいい?」
 祐子に訊くと
「気持ちよく飛べばいいのよ」
 と、素っ気ない。
「すぐにできるようになるよ」
 マー君が笑いながら言った。下界を見ると見たこともない景色が凄い早さで後方に流れていく。高度を下げれば地面すれすれに飛ぶこともでき、あっという間に上昇することもできる。祐子の言う通りだ。気持ちよく飛べば思ったように飛べる。神経が痺れるような心地よい浮遊感を感じながら、これが実態のない領域の出来事であることも認識している。しかし、実態がないからと言って、虚構の世界ではない。飛んでいるのは事実で見えている景色はある意味において実態と言える。そう言う不可思議な世界に自分がいることを、驚きと共に冷静に把握した。

「どこへ行く?」
「分からない、でも強い力に引きつけられているような気がするわ」
「工藤さんや他のみんなはどうしてる?」
「一緒に飛んでるわ」
 祐子の返事を聞いて辺りを見回すと、幾つかの光が見えた。皆同じ方向に向かって飛んでいる。俺も強い力を感じ始めた。今はかなり高いところを飛んでいて、地面は緑一色に見える。その先を見ると白く霞み、その奥が光っている。あの光に引き寄せられている。あの光の中に入ってしまえば二度と出られなくなりそうだ。一瞬の恐怖を感じたが、それよりもあの力に身を任せる快感がはるかに強い。目の前が白くなってきた。身体が痺れてしまったように感じる。此処はどこで何をしているのだろう。だが気持ちいい。ずっとこのままでいたい。

「謙太、起きて!」
 顔を上げると目の前に祐子とマー君が立ち、その後ろでは工藤さんが栄二君たちと打ち合わせをしている。
「何、どうなったの?」
「覚えてないの?」
 祐子が困ったような顔で訊いた。
「空を飛んで、白い光の中に入ったところまでは覚えているけど……」
「肝心なところは覚えていないのね、まぁ、それが普通だけど。大抵はあの領域に行くとね、神に出逢ったとか、お告げがあったとか、記憶の断片を絞り出して色々言う人がいるのよ。大きく間違ってはいないけど、肝心なところが誰も抜け落ちてるのよね。まぁいいわ、教えてあげる」
 祐子はそう言うと空中を指さした。指さした先には何もない。
「何?」
「謙太が行ったところよ」

 

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