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計画(12) [小説<物体>]

                                 計画(12)

「一体何がはじまるっていうの?」
 
 祐子が訊いた。
「おそらく、憎しみだろう。ユーマの途方もないエネルギーが憎しみとなってこの地球を覆い尽くしてしまう。人類を自滅させるつもりだろう。生気を奪えば滅びるはずだったが、ツリーチルドレンがそれを邪魔した。だから今度は人間の心の中を憎しみで充満させようとしていると思う」
 工藤さんはそこまで言うとまた考え込んだ。

「人類が自滅?」
 俺は工藤さんを睨むようにして訊いた。そんなことで人間が滅びるとは思えない。
「自滅とは、つまり内部崩壊だ。人間は外からやって来る危機には強いがね、内部のほころびには弱い生き物だよ。組織でも個人でも同じだよ。ユーマは人間の最も弱いところを突いてくる。憎しみの感情だ。そしてそれが一番確実で手っ取り早いことを知っているようだ。長い間人間を見てきたからね」

「私は大丈夫だわ、そんな手には乗らない」
 祐子はきっぱりと言った。
「理性じゃない。感情の部分なんだ。誰だって憎しみが悪いことは分かっている。だけど、感情はそうじゃない。出てしまうものなんだ。つまり計算でコントロールできないものだよ。目に見えない憎しみというウィルスに心が侵されてしまう。押さえれば押さえる程憎しみはより強い憎悪となって膨らんでいく。そして爆発させる。他人にね。後は連鎖するだけだ。これでこの地球上から人類だけが消えていく。理想的なシナリオだね。つまり、社会の中のあらゆる組織が混乱し崩壊し、孤立した個人が目を血走らせて徘徊するようになるだろう。全てのシステムが麻痺状態になるから、核ミサイルを撃ち合うような争いには発展しない。これなら綺麗な地球を温存して人間だけを消すことができるだろう。栄二君たちの仲間も例外じゃないだろうし、生気をいくら補っても、その生気は全て憎悪に使われてしまうから、かえって逆効果になるだろう。つまり手の打ちようが見当たらないのが今の現状だろう。この私だって、憎悪を剥き出しにして君たちに襲いかかるかも知れない」
 工藤さんは科学者らしく冷静に話したが、話し終えるとまた大きな溜息をついた。

「何とかならないの、このまま憎しみあって滅びるなんて嫌よ、虚空に行けば全てが分かるって言ったじゃない。もう一度あそこに行こうよ。きっと解決方法が見つかるはずよ。形はなくてもユーマだって命でしょう」
 祐子は工藤さんを覗きこむようにしていった。
「行かなくても、祐子さんは分かっているはずだと思う。頭で分かっていないだけだよ」
「じゃぁ、何か方法はあるんですか?」
 祐子は工藤さんに詰め寄るように言った。

 

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