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計画(13) [小説<物体>]

                                計画(13)

「申し訳ないが、私に分かるのはここまでだ。だけどここにいる誰もが虚空で何かを理解したはずだ。理解というのは頭じゃない。科学者の私が言うのも変だが、頭で考えて理解できることなんてたかが知れているからね。最も重要なことは無意識のそのまた奥にある何かが理解するような気がする。もしかしたらそんなことを悟りとか言うのかも知れないがね。求める答えはきっとそこにあるんだろう」
「悟り? そんなの私に分かるはず無いわ、聖人でもないし、仏様でもないし私はただのフリーターよ。この中で誰か分かった人いる?」
 祐子は皆を見廻したが、誰も押し黙ったまま返事をしない。俺は何か話そうと思ったが、言葉が出てこない。俺も皆と同じようにあの虚空で何かを掴んでいたとしても、何も頭に浮かんでこないし、工藤さんの言う意味すらよく分からない。こうしている間にもユーマは憎悪を、潮がじわじわと寄せてくるように拡大しているのかも知れない。皇居の地下の穴倉で聞いた銃声はオロチのような生き物に向けられたのではなく、仲間に向けられたもののような気がしてきた。憎悪に心を支配された誰かが仲間を襲ったのだろうか。

「ユーマは大きくなったよ、もう子どもじゃない。だからあの穴から出てきちゃう」
 突然、マー君が叫びながら祐子にしがみついた。
「マー君はユーマの動きに敏感なんです。あまり時間は無いかも知れません」
 栄二君が落ち着いた声で言った。俺よりひとまわり程も若いのに、この中で一番冷静なのは栄二君かも知れない。俺はどこかへ逃げ出したい気分だし、工藤さんも今までとは違って、打つ手がないように思える。

「解決にはならないが、ユーマの憎悪に支配されるのを防ぐことはできるかも知れない。それもユーマの正体が光子だと仮定した場合だがね」 
 工藤さんは窓の外を見ながら言葉を続けた。
「光子を遮断する素材で窓を全て覆ってしまえば、もしかしたら、憎悪から逃れられるかも知れない。だけどこれは破滅を先延ばしにするだけで、何の解決にもならない。時間稼ぎをするだけだろう、その時間でなにか方法を見つけられればいいのだが………」
 最後の方は声が小さくなった。

「どうやるんですか?」
 栄二君が訊くと、
「光子は粒子と波の性質を使い分けるから、まずは光を遮る分厚いカーテンで全ての窓を覆うこと。波の性質だとしたら金属で覆うしかないが、ここにはそれだけの金属はない。つまり無防備な状態になってしまう。電磁気的に逆の位相を作り出せばバリヤーのような働きをさせることができるが、そんなものを作る時間はないだろう。せめて研究室だけでも、ありったけの金属板を集めて遮蔽するしかない。ロッカーのようなものでも役に立つかも知れん」

 

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