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第6章05 [宇宙人になっちまった]

 次の日の夜のニュースは政権中枢で起きた事件の報道ばかりだった。竹内総理の主席秘書官の自殺だ。総理からの信頼も厚く、家庭的にも問題はない。何が原因だったのか、様々な憶測が乱れ飛んだが、決め手と思われるような事柄は出てこない。遺書も何も残さず、屋上から身を投げたのだ。テレビの解説者は政権への影響が大きく、今後の政治判断にも影響が出るだろうと論じている。懐刀を失った竹内総理の動向が注目され、早くも政局の混乱を予測して水面下での権力闘争が始まったようだ。
 ニュース映像を見ていた敬一は息を呑んだ。昨日の総理へのぶら下がり取材の映像に主席秘書官が映り込んでいるのだ。総理の後ろでフラッシュを浴びた秘書官に悪魔が取り憑いているのが瞬間見えた。量子の悪魔ではない。敬一が動きを封じられときと同じだ。つまり綾音だ。どうやったのかわからないが、おそらくキルケが秘書官を殺したのだ。敬一は自分とは関わりのないところで綾音が動いていることをテレビで知るのだ。事件の裏に綾音がいることは見えるが、その狙いがわからない。まるで繋がらないのだ。敬一の掴んだ情報は全てユニコ会に伝えてあるが、ドクターもエフも打つ手がわからないでいる。和歌山で綾音とオルギアで契約を結んだ政治家の名前は芝浦智也だったが、その男も間違いなく動いているはずだ。キルケから政権を奪えと命令されていたからだ。敬一はマスコミやネットから情報を入手しているが今のところ芝浦智也の名前は出てこない。芝浦の所属する鎌田派閥は自由党の中では最大派閥で、竹内総理を支える対価としてますます派閥の影響力を強めている。自殺した秘書官は官僚への影響力が強く、総理に対しては派閥以上に影響力を持っていた。総理は秘書官の言いなりと言うのが官邸での常識だったが、その秘書官を失った総理は派閥の力を頼るしか生き残る道はなかった。最大派閥を率いる鎌田重蔵は金庫番とも呼ばれ、財界との繋がりが深い。この男を味方にすると総理にもなれるが敵に回すと破滅すると怖れられている。芝浦智也は鎌田門下生の中ではまだ駆け出して、まともに口を利いてもらえることも滅多にない。
 突然の発表だった。官房長官の交代劇だ。自殺した秘書官との関係を疑われたのだ。官房長官が何らかの圧力をかけていたと噂されたが、根も葉もない話であることは誰にもわかる程度の内容だった。しかし、世間が驚いたのは新しい官房長官の名前を聞いたときだ。芝浦智也は確かに国民に知られた名前ではあるが、権力からは遠い存在なのだ。それが突然権力の中枢に座ったのだ。しかも鎌田重蔵という強力な後ろ盾があるから、相当に強力な影響力を持つことになった。まさに一夜にして激変なのだ。

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