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第6章06 [宇宙人になっちまった]

 敬一は芸能界と政界という、まるで関係のない世界で、綾音と芝浦智也が話題になっていることに違和感を覚えた。綾音の録画を陽介に見せると、これはサブリミナル効果に間違いないと言った。今は禁止された映像手法で、例えば風景動画に短時間だけ選挙候補者の画像を挟み込んでおくと、見た目では候補者の画像は認識できないが、脳はしっかり記憶していて、選挙当日にその写真や名前を見ると親近感を感じて投票してしまうらしい。商品の宣伝にも有効らしいが、この手法が綾音の映像に使われ、薬を服用する場面が挟み込まれている。薬とは和歌山で見たあの薬だ。五円玉ほどの大きさで、口の中で溶かして服用するようだ。エフは綾音を追い、時には円盤から降りて握手会にも顔を出して監視している。共通しているのはあの錠剤をファンに手渡ししていることだ。コンサート会場では出口に錠剤が沢山用意され、ファンが取り合うように持ち帰っている。コンビニでは何かのポイントをためると錠剤が貰えるようだ。綾音の人気は異常なほどの急上昇で、実力とかけ離れている。素人レベルなのに音楽評論家は絶賛し、綾音伝説が仕上がる。評論家の言葉を丸々信じてファンの数はうなぎ登りだ。そして錠剤がどんどんファンの口の中に入っていく。業界の中枢で下僕が目を光らせているのだろう、もし綾音の人気を脅かすような歌手が出てくればたちどころに潰されてしまう。
 ドクターの呼びかけで臨時にユニコ会が招集された。例の錠剤の分析が終了したとのことだった。場所はいつもの研修室だ。もう日が暮れて窓の外には街の明かりが目立ち始めた。前回から一週間ほど過ぎただけなのに、世の中の変化が大きすぎる。サードブレインから見るとすべて悪魔のシナリオ通りに見える。敬一は複雑な気持ちで研修室に入った。誰の顔も浮かなく見える。不安で仕方がないのだ。サードブレインは最悪の予想として、国家の機能を失い、弱肉強食の獣の住む島になる可能性が高いと警告しているのだ。国家がなくなるとはどういうことなのか、考えたこともない。今までは国家という法が自分を守ってくれたが、国家が機能を失えば、自分を守るものは自分の力以外ない。経済力も役に立たないだろう。悪魔が一番喜ぶシナリオで、ありとあらゆる殺しを実行することができるからだ。ドクターが入ってきた。浮かない顔だ。
「酷いことになった。真実が見えているのはここに集まった俺たちだけだ。あいつらは俺たちを見くびってやりたい放題だ。なんとかしたいのは皆も同じだと思うけど、今は我慢して奴らの出方を監視するしかないと思う」
 ドクターはそう言いながら皆の表情を確かめるように見た。

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