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第2章12 [メロディー・ガルドーに誘われて]

「最後に目撃されたのがこの裏山の入り口だからね、きっとここまで来ていたと思う」
 祐介はコンパスの動きを見ながら松の木の下まで移動すると、ここがむしろを敷いた秘密基地だったことを思い出した。モノクロ写真のように浮かび上がった慎太郎君の姿は空を見上げて立っている。突然だった。慎太郎君が〈呼んでる!〉と声を出し、祐介はその声で空を見上げた。あの日の出来事が脳裏に蘇る。彼はUFOに呼ばれていたのだ。
「慎太郎君は呼ばれてここに来て、そしていなくなったと思う」
 祐介は石ころだらけの広場を見ながら言った。
「呼ばれて?」
 沙羅は祐介の顔をのぞき込むようにして訊いた。
「UFOが来ることを知っていたんだ。行方不明になった日も呼ばれたんだ。そしてここでいなくなったと思う」
「どういうこと?」
 沙羅には確信があったが、あえて祐介に訊いた。
「UFOに乗って行ったと考えるのが妥当だと思う。常識では考えられないことだし、そんなこと誰も信用しないけど。だけどそれが真実だと思う」
「同じね。私もそう思うわ。そんなことありえないと思うようなことを真面目に考えることが大切なのよ。でないと宇宙の進歩について行けないわ」
「宇宙の進歩?」
「ごめんね、これはサークルでの言い方だったわ。深い意味はないのよ、人類と地球外の知的生命体がそれぞれ個別に進化する段階は終わって、お互いが影響し合いながら進化する段階を迎えたって意味なの」
 沙羅は当然の考えであるかのように話した。
「宇宙で人類はひとりぼっちと言うのが世間の常識だと思うけど、沙羅さんの仲間は違うんだね」
「祐介さんだってそうでしょ。だって友達の慎太郎君が円盤に乗って遠くの星に行ったと思ってるんだからね」
 沙羅はそう言うと笑って見せた。
「俺はUFO見たからね、あんなもの見ると何でもありと思えるよ。人間の子供が誘われて行ってしまうのも当然ありだよね。どこへ行って今頃何してるのかと思うけどさ、時間だって、それこそ浦島太郎みたいにさ、こちらの百年は別の世界では数分かも知れないし、慎太郎君はほんのちょっと内緒で出かけてる感覚かも知れないよね」
 祐介は空を見上げながら言った。もしかしたら慎太郎君に見られているような気がして雲の隙間を探した。
「久しぶりにこの場所に立って何か感じる?」
 紗羅も同じように空を見上げながら訊いた
「俺は呼ばれなかった……けど、どこかで繋がってるような気がする」
 祐介は足下の小石を拾うと、子供の頃を思い出すように眼下に投げた。見ていた紗羅も同じようにして投げた。眼下の由良川まで届きそうな気がするが、小石は木々の間に吸い込まれ、カサリと音を立てるだけだ。
 鉄橋を渡る電車が小気味良い音を響かせながら渡り、祐介と紗羅は風景の一部になったように小石だらけの広場に二人のシルエットを伸ばしている。
「UFOはいいやつだと思う?」
 祐介が訊いた
「どうかしら、悪いやつなら今頃人類は何かに利用されてると思うわ。色々調べたけど、たまたまじゃないのよね、慎太郎君のことも、祐介さんが急に思い出したこともね。もしかしたら私がここに来たこともそうかも知れない」
 紗羅の小指が風に吹かれて揺れるように動き、並んだ祐介の小指に触れる。祐介は黙って下界を眺めているが、紗羅の指が触れるたびに心臓が反応している。
「そろそろ行く? 早く下りないと暗くなっちゃうわ」
 紗羅が言った。
「現場検証はもういいの?」
 祐介が訊くと、紗羅は広場にうずくまるようにして小さな小石を二つ拾った。その小石を手の平に乗せて祐介に見せると、
「証拠品ね」
 と言って一つを祐介の手に握らせた。
「広場と磁気を確認できたから十分よ、それと小石ね」
 紗羅はそう言うと祐介の手を握り斜面を下り始めた。祐介は紗羅が滑り落ちないように注意深く手を引き、入り口の大岩を過ぎてようやく繫いだ手を離した。
 二人は翌朝早く綾部を発ち、十数時間かけて東京までたどり着いた。

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