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アポトーシス(3) [小説 < ブレインハッカー >]

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                                  アポトーシス(3)
「ある実験からだ。あの実験のあとすべてが変わったんだ。培養液に浸された動物細胞と、ある周波数に変調された俺の脳波を電磁気的に接続した実験だった。細胞には弱い電磁気刺激が与えられるだけなんだけどね。俺は戦闘機のパイロットのようなヘッドセットを装着し、ゴーグルの中で瞬くデジタルの光を見ながら指示されたイメージを頭に思い浮かべるだけなんだ。
 一時間後細胞に明らかな変化が見られたよ。細胞が分裂を始めたんだ。目的のない成長をね。実験は何度も繰り返されて、色々な細胞から動物の臓器まで試したよ。その度に細胞は応えたね。無秩序で気が狂ったように増殖したり、ときには静かに死んでいくこともあったよ。俺の脳が作り出すイメージに応えたんだね、まるで生き物のようだった。俺にはそれがどんな意味を持つかなんて分からなかったけど研究所の連中はまるでお祭り騒ぎだったね。
 君は世界で一番有名な男になれるって言われたよ。でもそれは初めからの計画だったんだ。一週間後にジュリア以外の人間が居なくなって、あいつが替わりにやって来たんだ。助手二人を連れてね。今までの研究者と違って絶対の権力を持っていたよ。奴の言うことならどんなことでも実現するんだ」
 と言うと、
「人の命でもね」
 と吐き捨てるようにつけ足した。
「連絡が取れなくなったのはその男が現れてから?」
 と昭彦が聞くと、
「あぁ、別の場所に連れて行かれて軟禁状態さ。昭彦が調べている頃俺は研究所には居なかったんだ」
 昭彦には兄がそんな簡単に奴らの言いなりになっていたことが不可解だった。
「兄貴には特別な力があるはずだろう、何とかならなかったの?」
 と訊くと、
「病人を元気にするぐらいじゃ何の役にも立たないさ」
 昭彦は少々がっかりしたが、
「それで、何をしたの」
 と聞いた。
「実験結果があまりにも劇的だったからね、生きた人間の細胞に影響を与えることに興味を持ったのさ。奴らは精神のエネルギーが途方もない可能性と力を持っていることに気がついてしまったんだ。人の為に使えばこれは奇跡の日常化さ。でも悪用すれば人間は最強の悪魔になることが出来るということだ」
 達夫はそこまで話すと深いため息をつき、暫く黙って俯いていた。再び顔を上げると、自分が行った実験の数々を苦しそうに話した。
「連れて行かれた場所は分からないけど、山の中のまるで別荘地のようなところだったよ。おそらく軍施設だと思うけどね、窓から見えるのは森だけで他には何も無かった。俺は元の生活に戻れるように何度も交渉したけど相手にもされなかったよ。実験が終われば帰らせてやるから黙ってやれと高圧的な態度でね、悔しかったけど諦めて協力するしかなかったんだ。建物は大きくて地下室も広かったよ。その地下室で人間を実験台にしたんだ。ひどい話だよ。奴らは一体誰に命令されているのか知らないけど、生身の人間を実験に使うことに何の躊躇もなくてまるでモノ扱いだよ。勿論俺はそんなことは知らなくて、動物実験とだけ聞かされていたんだよ。
 確かに最初は動物でしかも心臓や脳などの臓器だったんだ。でもそれは今までのと違って生きている臓器なんだ。目の前に見せられたときは吐きそうになったよ。そしてその頃には脳波と細胞を電磁気的に繋ぐ必要は無くなっていたんだ。元々そんな物は俺のデータを取るためだけの物で、細胞には何の影響もなかったんだ。ただ俺のイメージを強化し易くする為だけのまやかしに過ぎなかったんだ。ただ目の前の臓器にイメージを注ぎ込むようにすればいいんだ。
 子供の頃飼ってたケリーって犬がジステンバーに罹ったときのこと覚えてるだろう。もう死んでしまったんだからと言われても納得出来なくて、二人でずっと側にいて生き返れって思い続けたら動き始めたこと。まだ死んでいなかったのかも知れないけど、あれと同じことをやらされたんだ。ただ違うのは色々なイメージを作ることだけなんだ。勿論思うだけで出来ればこんな簡単なことはないけど、思い描いたイメージの持つ力で現実の何かに影響を与える為にはどうしても越えなければならない壁のような物があるんだ。
 それは自分の作り出したイメージに命を吹き込むような作業とでもいえばいいのかなぁ。エネルギーは何処にでも無限にあって、ただそのエネルギーにチャンネルを合わせるような作業なんだ。そうすればそのイメージが現実に力となって現れるような感じなんだ。イメージにも生死があって、生の方向のイメージは作りやすいんだけど、死の方向のイメージは却って自分が危険になることもあるんだ。だから止まっている心臓を動かし始めることはそんなに難しくなかったけど、反対はなかなか成功しなかったんだ………最初はね」
 と言うと大きく息を吐いた。
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