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アポトーシス(2) [小説 < ブレインハッカー >]

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                          アポトーシス(2)

 川に沿って沢山の小屋が並んでいる。小屋と言っても段ボールにシートを掛けただけの簡単な物から鉄パイプで骨組みを組んだ相当しっかりした物まで様々である。橋の上をトラックが走っていくのと、その下を船がゆっくりと動いていくのが見えるだけでそのほかには動く物は見えない。街路灯の光と橋を照らすライトがその周囲だけを浮かび上がらせるように際立ち、遠ざかると光は霧の中に吸い込まれやがてその力を失っていく。

 二人は身体を丸め寒さを防ぎながら次の橋まで歩いた。遠くから見れば人生の悲哀を感ぜずにはいられない姿であったが、二人の眼光は鋭く周囲を睨んでいた。近くをすれ違う人がいれば、きっと身構えたに違いない。二つ目の橋に来た頃には白々と明るくなり、かなり遠くまで見通せるようになってきた。もっと先まで行くか戻ろうかと立ち止まり振り返ったとき、すぐ後ろに兄を見つけた。あっと声を出しそうになったが、兄はついて来いと言うように背中を見せて歩き始めた。二つ年上の兄の背中は懐かしく頼りがいがあった。しばらく黙ってついて行くと鉄パイプにシートを被せた粗末な作りの小屋があり、その中に入っていった。

「見た目はひどいが入ってみるとなかなかいいだろ。様子を聞かせてくれ」
 と兄の達夫は嬉しそうに言った。昭彦は潮見のことや、静恵達のこと、浅草の噂のことを手短に話すと、兄のその後の行動を訊いた。

「お前の部屋を出てからとにかくすぐ新幹線に飛び乗ったよ。でも大江の駅にはさすがに奴らの手先がいたね。俺は何も気づかずに連中に取り囲まれてぼこぼこさ。気を失ったまま車に連れ込まれて、気がついたら福知山インターチェンジに入るところだった。ところが対向車がセンターラインをオーバーして正面衝突さ。相手の車は大破したけどこちらは頑丈な外車だったから、衝撃はかなりだったけどかすり傷程度で済んでね、その隙に逃げて家までたどり着いたけど誰にも会えなかった。

 親父には会いたかったけど、奴らいつまでも待ってくれないからね。どうしても必要な物があったからそれだけ持つと猛の古いホンダGL500を無断で借りてこっちへ戻って来たって訳さ。お前の部屋の様子を見に行ったが二十四時間見張られていたよ。奴らは一年だって見張り続けるさ。そういう連中なんだよ。部屋にお前の居る気配はなかったから、逃げたと分かったよ。連絡方法ぐらい決めておけば良かったけど、でもあのときは何も信用できなかったんだ。お前だって巧妙な連中に騙されるってこともあり得ると思ったからね、悪いけど。

 でも昭彦は俺が思った以上だったよ。自分が鬼の子孫だって言いふらしてるのも知ってたよ。俺へのサインだってことは分かったけど、連中にだってその内知られてしまうし、不用意に会ったりすると命取りにもなりかねないからね。浅草の事件はいずれ昭彦も聞いて必ず来ると思っていたよ。情報を流したのは俺だけどね。新宿のような雑多な町は奴らが見えないけど、浅草はわかりやすいところだから奴らの動きはすぐバレちまうんだ。今のところ大丈夫のようだけど、新宿は気をつけた方がいいね。奴らもそれ程馬鹿じゃないよ。お前が研究所を嗅ぎ廻っていることは奴らも気づいているみたいだから、かなり警戒は厳重になっているようだな」

 そう言うと何事もなかったかのようにポケットからコンビニのおにぎりを取り出して食べ始め、
「これからのことだが」
 と研究所のことや連中の計画のことを話した。

「俺が知らされた研究目的は特殊精神医学に関わる研究で、生死に関るような戦闘状態での心理と行動と身体の関係についての基礎データの収集ということだった。この分野の研究では一応の成果があって、どのような状況にあっても冷静で正確な判断と行動が出来るための訓練プログラムも開発されているようなんだ。

 アメリカが七十年代にCIAを使って極秘プロジェクトをスタートさせ、遠隔透視(リモートビューイング、略してRV)の研究を進めたというのは聞いたことがあるだろう。後に米陸軍が研究を引き継いで、一定の成果を得た後、大学の研究機関で現在も行われているということだ。

 俺の協力した研究はいわゆるRVの進化型とでもいえばいいのかなぁ、ビジョンを見るだけじゃなくて、他人の思考と感情と身体をコントロールする研究なんだ。オカルトの世界では呪術なんてのがこれに当たるかもしれないね。今までにもこのような能力の優れたカリスマ的天才はいたし、現在でも少なからず居るだろう。なんとか教の教祖なんてのもそうかもしれないね。催眠術もこの一種だと思うし、日本は以心伝心の文化で、言葉ではなく解り合えることを大切に考えてきた精神的土壌もあるからね。ある意味では誰しも日常的に行っていることなんだよ。

 ただこの研究が大きく違うところは、通常のコミュニケーション手段を使わずに行うということなんだ。見ず知らずの他人の思考と感情と身体に離れたところから影響を与えることなんだ。ある意味でこれは世界平和のための切り札となるかもしれないし、少数の支配者の独善を許す悪魔の杖となるかもしれない。

 俺も最初はこの研究が成功すれば、例えば凶悪な殺人者から人命を救うことが出来るかもしれないと考えたし、その為に研究に協力したつもりだったんだ。奴らは俺の家系がそのような能力を育て今に伝えてきていることを古文書から知っていたし、現に地域では難病を治す治療者として有名なことも知っていたからね。まぁ、被験者としてはこれ以上の人材はいないだろうね。他にも数人の協力者が居たけど俺の出すデータは群を抜いていたね。いわゆる超能力者に顕著と言われる十ヘルツ近くの脳周波数レベルが異常に高いのが特徴だって言ってたね」
 達夫はそこまで話すと、一息つくようにペットボトルの水を美味しそうに飲んだ。
昭彦は、
「それがどうしてこんなことになったんだ」
 と訊いた。

 

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