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トランス(5) [小説 < ブレインハッカー >]

超越瞑想入門―存在の科学と生活の技術 (1977年) 超越瞑想入門―存在の科学と生活の技術 (1977年) [古書] (-)
マハリシ・マヘッシ・ヨーギ (著), 十菱 麟 (翻訳)

一昔前、アメリカで流行しました。科学者自らLSDを使った幻覚実験を行ったのもこの頃です。中身は色褪せません。瞑想は深いですね、日本では禅が発達しました。

 

 

                                        トランス(5)

 日が暮れるまでにもう少し時間がある。真っ白な雪が次第に赤みがかり、やがてセピア色になってきた。
 これから行こうとするところは厳重な警戒と高い塀、胸に武器を潜めた危険な男達。それに比べ、達夫たちにあるものと言えば体一つ以外何もない。ここまで来たというより、追い詰められてとうとうここまでやって来たようなものである。そう簡単にことが運ぶとは誰も思っていない。

 やがて辺りは闇に包まれた。動き出すにはまだ早い。それぞれ窮屈そうに身体を曲げて眠り始めた。伸也と由美は後部座席で身体を摺り寄せるようにして目を閉じている。伸也は由美の体温を感じながら、浅い眠りの中で押し寄せる意識を探っていた。気持ちを集中させるとありとあらゆる種類の意識を感じることが出来るようになっていたのだ。

 意識と言うよりも命の声と言ったほうがいいかもしれない。それは人間だけではなく、自然界のあらゆるものが含まれ、まさに洪水といってもよかった。そのほとんどは心地よさを感じさせるものであり、特にこの雪の中に感じるものは清々しい感じの意識が大半である。

 しかし時々鳥肌の立つほど不快に感じることがあり、懸命にその正体を探ろうとするが、なかなか正体を現さない。
そっと由美を見ると、由美は伸也の視線を感じて顔を向けた。
「眠れないの?」
 と伸也が聞くと、
「これって胸騒ぎっていうのかしら、妙だわ。急に心臓がバクバクし始めて喉まで上がってきそうなの」
 と不安そうに言った。
「胸騒ぎ?」
 伸也はしばらく考えていたが、
「昭彦さん、何か感じますか?」
 と声をかけた。

「ああ、分かってるよ………伸也君も感じるだろう、あの女に違いないと思う。浅草で感じたのと同じだよ。でも今度は奴も慎重だからなかなか隙を見せないようだね。奴の居所だけでも分かればいいんだけど………俺も伸也君も奴には知られているから迂闊には奴の意識に入り込めないし………」
 と昭彦が考え込むと、
「いいわ、私がやってみる。その女の意識に入り込んで居所を探ればいいんでしょう、リモートビューイングね」
 と由美が心を決めたように言った。

「由美さんに出来るの?」
 と昭彦が驚いたように訊くと、
「門前の小僧よ、昭彦さんみたいな人達と一緒にいると知らず知らずのうちに能力が高まっているみたいなの。それに伸也さんからやり方を教わっていたし」
そう言うと伸也を見て、
「大丈夫でしょう?」
 と訊いた。
「もし相手に気づかれそうになったらすぐに戻ること。そうしないとこちらの居所がばれることもあるし、もっと危険なことになる可能性もあるから十分に注意して。ちょっとでもおかしいと感じたらすぐにだよ。これだけは忘れないで………」
 と心配そうに言うと、
昭彦も、
「俺達がついているから心配はないけど、奴の力も未知数だから変だと思ったらすぐ戻るように」
 とつけ加えた。

 由美は黙って頷くと伸也の手を握り静かに目を閉じた。
握った伸也の手を通して何か力強いものが流れてくるのを感じる。その力強さを頼りに先ほどは逃げ出した胸騒ぎの正体へと迫った。

 壁に押しつけられたような感じがし始め、もう逃げ出せないところに来てしまった。もやもやした不快感が露になるとそれは具体的な形となって由美の眼前に姿を見せた。長く伸びた爪、その両手だけが露になって由美の顔に迫る。その指先に力が入り鎌のように曲がって由美の目を狙うように近づく。

 由美はその恐怖に懸命に耐えて目を見開いたまま、伸也に教わったように、その奥にあるものに気持ちを集中した。両手が光のように由美の後方に飛び、視界はぐんぐん音を立てて加速した。体が軽くなったように感じると、目の前一杯に視野が広がった。

 

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