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トランス(6) [小説 < ブレインハッカー >]

ブッダの瞑想法―ヴィパッサナー瞑想の理論と実践 ブッダの瞑想法―ヴィパッサナー瞑想の理論と実践 (単行本)
地橋 秀雄 (著)

原始仏教の瞑想法として近年注目を集めつつあるヴィパッサナー瞑想。その本格的な実践指導書として書かれたのが本書である。本書は、「瞑想の実践マニュアル」という側面と、「瞑想の理論的裏付け」という側面を併せ持つ。
 「基本瞑想の実践マニュアル」の章では、歩く瞑想・座る瞑想・立つ瞑想等、あらゆる場面における瞑想の実践方法が、初心者にも分かるよう、懇切丁寧かつ具体的に解説されている。また、「心を観る瞑想」の章では、いわゆる「心随観」について詳説されている。今までも、ヴィパッサナー瞑想に関する欧米人の著作が数多く翻訳・出版されているが、「心随観」についてここまで詳細に明らかにしたものは、例を見ないだろう。
 一方で、「殺さない」「嘘をつかない」等、仏教の倫理的行動規範である「五戒」を守ることの重要性や、クーサラ(善行)や慈悲の瞑想の必要性等、広義のヴィパッサナー・バーバナー(清浄道)についても解説されている。
 「能力開発にも役立つ」など、仏道修行や解脱を目指す向きからは、若干話がそれる部分もあるが、本書は、瞑想の経験者のみならず、「なんとなく瞑想に興味がある」という読者層や、「瞑想で人生の苦(ドゥッカ)をなくしていきたい」という人たちにも有意義なものであろう。
 もちろん、中・上級の瞑想修行者にとっても、有意義な内容が多い。ヴィパッサナー瞑想特有のサマーディである「瞬間定(カニカ・サマーディ)」の描写など、机上の空論ではなく、実際に瞑想修行に取り組んだ著者だからこそ書けた記述も注目に値する。
 「まえがき」にあるように、朝日カルチャーセンターや各種瞑想会、瞑想合宿などで十余年にわたってヴィパッサナー瞑想を指導してきた著者だからこそ書けた、貴重な瞑想指導書である。(レビューより)

 

 

 

                                 トランス(6)

 眉間に皺を寄せて眼を閉じている女と気難しそうな顔をした男が並んで座っている。後方に流れる背景と車の後部が見える。由美は注意深く視野を動かし前を見た。髪を茶色に染めた男がハンドルを握り、助手席にも同じような男が座っている。内装は豪華で室内も広い。かすかに風切音が聞こえるように思った。その男達の更に前を見るとフロントガラス越しに景色が見える。立ち並ぶビルの間を縫うように道路が延びている。見覚えのある高層ビル、
<新宿だ!>
 と思ったとき、後ろから男の声が聞こえ振り返った。
「どうだ、わかったか?」
 と西山が訊くと
翔子は、
「そうね、こんな簡単に誘いに乗って来るとは思わなかったね」
 と薄笑いを浮かべ、視線を正確に由美に向けた。由美が戻ろうと思った瞬間、身体は凍りついたように動けなくなってしまった。由美は翔子の前で身動きが出来ない。
「ニューフェイスね」
 と翔子が言うと、
「いるのか、ここに」
 と西山が訊いた。
「あなたの目の前よ。私には顔も見えるわ、なかなか可愛いのね」
 と、由美をなぶるように見た。

<たすけて!>
 と伸也を呼んだが声にはならず、身体にも力が入らなかった。
「初心者の癖に生意気なことするからよ、いったん抜け出た意識はとても不安定なものなのよ。一瞬のうちに宇宙の果てに飛んで迷子になることだってあるわよ。そうして欲しい?」

 翔子は怯える由美を面白そうに見ながら言った。
伸也は由美の異変に気がついた。急に呼吸が荒くなり、身体が硬直したように硬くなり動かない。

「由美! 起きろ!」
 伸也は耳元で叫び、身体を何度も揺すったが反応が無い。
「伸也君、由美さんの意識に入れる?」
 と昭彦が聞いた。
「分かりません、でもやってみます」
 と、由美の手を握ったまま目を閉じた。

 気持ちが焦って思うように由美の意識を捕らえられなかったが、ようやく懐かしい感じを見つけて焦点を合わせた。

 視界が現れたとき伸也は息を呑んだ。見えないはずの由美が女の手でしっかり掴まれているのだ。しかも数え切れないほどの手が由美の身体を掴んでいる。指先は由美の身体の中にまで食い込み、由美は身動きできないでいた。

 

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