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終章(3) [小説 < ブレインハッカー >]

生命とは何か―物理的にみた生細胞 (岩波文庫 青 946-1) 
生命とは何か―物理的にみた生細胞 (岩波文庫 青 946-1) (文庫)
シュレーディンガー (著), 岡 小天 (翻訳), 鎮目 恭夫 (翻訳)
絶版新書に意味不明のプレミアム価格がついていた希代の名著がやっと手に入りました。 それも630円で。感動です。 一気に読みました。すげえ本です。
お断りとして、私は純文系です。
それでも、世界の森羅万象が知りたい、ありがちなゼネラリスト志向な純文系です。
ですから、この本の言うところが、今現在の最先端科学知識にどの程度外れてしまっているのか、厳密なことはいえません。
でも、これまで読んできたどの量子論の本よりも、この古い本のほうが「本質」が分かった気がします。
「何故、人間は、と言うか細胞は、原子に比べてこれほど大きいのか?」
この本が呈示するほど明快な答えは、なかなかないですよ。
ほかにも突然変異の不連続性(変異前と変異後の個体の中間的個体は全く存在しない)の理由が、量子論の量子飛躍によって見事に説明されたり、もう、「本当のこと」が知りたい自分にとっては、目から鱗落ちまくりでした。でも、結局、科学知識に限界のある自分には、シュレーディンガー氏が言う、
生きている物のみに働いている、「今までに知られていない物理学の別の法則」というのが、何を言わんとしているのかよく分かりませんでした。
現代物理学は、生命の原理も、突き詰めていけば非生命に働いている単純な物理法則により完全に説明できる、というスタンスなのだと思います。
でも、もしかしたら、シュレーディンガー氏は、また別のことを考えていたのかしら…などと、妄想はふくらむばかり。
とにかく、このすばらしい一冊を存分に楽しもうと思われる私と同じ純粋文系諸兄の皆さん。
まず、この本の前に、PHP文庫の「量子論を楽しむ本」を読みましょう。
そして、シュレーディンガー氏が当たり前のように述べる「量子論」という不可思議な世界を少し知ったかぶった上で、この希代の名著にあたりましょう。そうでないと、もったいない気がします。
老婆心ながら…(レビューより)
                                     
           
              ・・・・・・・―――  終章(3) ―――・・・・・・・
「行こう」
 達夫はそう決心するとゆっくり前に進んだ。車は猛スピードで研究所に到着し、数歩進んだところでヘッドライトに照らし出された。
「久しぶりだな、お前がここまでやるとは大したものだ。だが……終わりだ」
 西山は車を降りると勝ち誇ったように言った。後ろには銃を構えた仲間が立っている。
「まだ終わってない。これからだ」
「どうする?お前の力は俺には通用しないぞ。少しでも変なことをすれば胸に穴が開くことになる。万事休すとはこのことだ、諦めろ、ハッハッハッ」
 西山はそう言うと後ろの男たちに目で合図を送った。拳銃を構えた男たちは照準を達夫に合わし、これで最後というように引き金に指をかけて次の合図を待っている。
「西山、感じないのか……お前が敵にまわした相手を……お前の本当の敵は俺じゃない。たとえ俺たちを殺したとしてもお前は勝つことは出来ないんだ。俺は九旗家の最後の修練でやっとそのことが分かった。俺と同じ種類の力を持つお前なら分かるはずだ。この闇の中に満たされているものを感じるはずだし、宇宙に隠されているものが何かわかるだろう」
「宇宙だと?ハッハッハッ、そこまで馬鹿な奴とはな、もう少し利巧かと思ってたが親父の言う通りだ。大江の九旗には馬鹿しかいないってな。いいか、本当のことを教えてやる。俺は和歌山の一族だ。修練の力を利用すれば日本を乗っ取ることなんか朝飯前で出来ちまう。俺たちの一族は日本の政治も経済も動かせるのさ。所長も一族だが奴は残念ながら大した力は無かった。大江の九旗を使おうとしたのがそもそも間違っていたのさ。関東建設の社長も大蔵省の政務次官も和歌山の一族だ。関西経済界のドンと言われている久木厳もそうだ。皆修練の力を使ってのし上がった。能力のある男は間違いなくトップに立つことが出来るということだ。
 世の中は力のあるものが全てを支配することが許される。力の無いものは支配されることを選べば安楽に生きることが出来るという訳さ。俺たちは支配することを約束された一族だ。童子はその為に修練を残してくれたのさ。いい加減に目を覚まして俺と手を組め」
 西山は達夫を睨んだ。
「目を覚ますのは西山、お前の方だ。細胞に自殺させてしまうアポトーシスを使うと恐ろしいことになってしまう。小さな細胞の一つ一つの命は宇宙と直結しているんだ。お前が敵にまわした相手は宇宙そのものなんだ。勝てる筈が無い。勝つとすればそれは全ての破滅だ」
「全ての破滅だと、馬鹿なことを言うな。それならここで試してやる。俺の敵はお前、達夫だ。覚悟しな!」
 西山は後ろの男に銃を構えさせたまま、目を閉じた。
達夫は全身が熱くなるのを感じた。もの凄い思念が押し寄せてくるのが分かる。その思念が達夫の細胞の一つ一つに死を命じている。達夫も必死にその思念に抵抗し、細胞に生を命じている。細胞の判断は単純で、思念の強い方に従い自他の優先順位は全く無い。強い思念を自分の意志と勘違いするのだ。一つの細胞が勘違いをすれば、それは次々に伝染して全身に伝わってしまう。ときにはDNAすら書き換え更に空間を越えて他の細胞にまで伝播することもあるのだ。
 達夫は予想以上の思念の強さに圧倒されかけていた。ますます身体に熱を感じる。あの研究員のようにどろどろに解けてしまうのだろうか。達夫は熱に耐えながら必死に呼びかけた
<生きろ!生きろ!負けるんじゃない!>
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