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第2章 その(14) [小説 < ツリー >]

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                                                                                                                                            第2章 その(14)

「うん、俺、結構弱いんだよね、すぐ酔っちゃうよ」
「彼女のこと思ってたんでしょう」
「そんなこと無いよ、不思議だなって思ってた」
「何が不思議なの?」
「だって、出逢ったのが山の中だし、突然抱き合って家まで行って、そしてドライブして、神社に泊まってさ、いきなりヨットにまで乗って、そして今一緒にワイン呑んでるだろう。なんだか不思議な気がしてくるよ」
「そうね、でも、だれでも一度や二度はそんな不思議な出会いを経験したりするんじゃないかしら、ただ、それを受け入れる人と、避ける人の違いはあるかも知れないわね。私もあなたも受け入れるタイプみたい。私は思っているの、自分の感性が望む方に行けば、たとえ間違ったとしても後悔はしないだろうって。だから私はね、もしもよ、仮に悪い結末になっても、受け入れる準備は出来ているし、ツケを払う覚悟はしているつもりよ」
 どうして美緒はこんなに考えているんだろう、成り行き任せの俺とは随分大人に思える。

「俺なんかでいいの?」
「それは私の言うことよ、あなたは自分を知らないのね」
「じゃぁ、どんな男か教えてくれる?」
「そうね、まず第一に陰気そうで、、顔はまぁまぁね、でもそれほど印象に残る顔でもないわね。それから、お金も無さそうだし、頭もそれほど良さそうには思えないし、根性とかとも縁が無さそうだし、変なオーラが出てて、目から不思議な光が出てるくらいかなぁ」
「へこむなぁ、少しは持ち上げてくれると思ったのに」
「甘い、甘い、人生経験の差ね」
 そう言うと、美緒は美味しそうにワインを口に入れた。
「オーラとか、目の光って何?」
「そう、不思議なのはこれよ、でも私にしか分からないと思うわ。叔父さんが言ってたでしょう、波長が合うって。同じ者同士なのよ」
「俺には美緒のオーラは見えないよ」
「見るものじゃないのよ、感じるの。肌でね」
 時折美緒は不思議なことを言ったりするが、俺と同じとは思えない。でも、このミステリアスな掴み所のないところに俺は惹かれているのだろう。もしかしたら、俺は美緒の不思議な部分を貪欲に吸収しようとしているようにも思う。

「ねぇ、ちょっと外に出てみない?」
俺は美緒と暗闇を歩いてみたくなった。多摩の山の中とは暗さが比べものにならない。
「今?」
 美緒はコップを持ちながら、キョトンとしている。
「丁度月も沈んだ頃だし、こんな暗闇は滅多に経験できないよ」
「怖いから嫌だわ、それに寒いし」

 嫌がる美緒を、ほんの少しだからと説得すると、渋々付き合うことにしてくれた。
社務所を出てしばらくは窓の明かりがあって足下も見えるが、石段を登り始めると光は届かなくなり、前には底知れぬ闇が見えるだけになった。
「もう、十分じゃない、何も見えないよ、帰ろう」

 美緒は俺の腕にしがみつくようにしている。俺も一人だったら絶対ここは無理だろうと思う。暗闇の恐怖というのは例えようがなく、鳥肌は立ち、後頭部の髪の毛は立っているのではないかと思うほどゾクゾクしている。寒さだけではこれ程までにはならないだろう。
ただ、この恐怖の向こう側に何があるのか知りたい。人はこの暗闇の恐怖をどうやって乗り越えるのだろうか。暗闇は人の感性を極限まで研ぎ澄まし、あらゆる感覚が目覚めそして、未知なる部分に対する想像力を逞しく膨らませる。


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