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第3章 その(4) [小説 < ツリー >]

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                     第3章 その(4)

 久しぶりに電車に乗り、久しぶりに都内に出る。矢島と呑むときは下北沢がほとんどで、店も大抵は同じところだった。今日はどういう風の吹き回しか、店だけが違っていた。
 駅の階段を下りると、相変わらず大学生らしき女たちが、店のユニフォームに身を包みチラシを配っている。それらの女たちと視線を合わせないようにうつむき加減で通り抜け、狭い通りを下っていった。タクシーが一台通れば、通行人は店に張り付くようにして避けるこの通りの末端にその店はあった。

 間口が狭く奥行きのある、ウナギの寝床のような居酒屋である。学生風の客が大半で、料金も安い。その一番奥のテーブルに矢島と川崎を見つけた。川崎は俺と同じ同好会で、矢島の親友でもある。

「おう、久しぶり」
 俺が椅子に座りかけると矢島が声をかけた。        
「どう、調子は?」
 俺は二人を交互に見ながら言った。矢島と川崎は就職が決まり、四月からは社会人になるからだ。
「今の内に英気を養っておかないとね、春からは厳しいからな、お前こそ調子はどうだ?」
「俺は留年決定だからな、あと一年のんびりやるさ」
 就職が決まった二人を羨ましく思うが、きっと今の俺の状態では就職は無理だったのだろう。

「大学来ないで何やってたの?」
 川崎が訊いた。
「なんにも……妙に気が滅入ってさ、人に会うのも嫌だし、昼間、外に出るのも嫌だったよ。出れば誰かに見られてるような気がして苦しくなる……そんな感じ。今日はそんな気分が嘘みたいに思えるよ、なんかわかんないけど、少し変わった気がする」

 本当はもっとキツかったがあっさり説明すると、川崎が妙に感心したように言った。
「同じだなぁ、同好会の連中……判で押したように同じだよ、外に出るのが嫌で見られてるみたいだって、それで夜中に出歩くんだろう、まるでドラキュラみたいだな」
 同好会の連中が俺と同じようになっているとは思わなかった。

「なんでだろう、同好会でなんかあった?」
 俺が川崎に訊くと、しきりに首を傾げて考えている。
「お、来た来た!まずは乾杯かな、そうだな、俺たちの就職と祐介の復活に、乾杯!」
 矢島は旨そうにビールを喉の奥に流し込み、フゥーと大きく息を吐いた。まるでもう一足先にサラリーマンになったように見える。
「で、その同好会のこと、どんな活動やってたんだっけ?」
 矢島は焼き鳥を頬張りながら訊いた。

「もともとは闇鍋をつつく程度の親睦会だったけどね、誰が言い出しっぺだったっけ、とにかく、いっそ暗闇同好会にしようって事になってからちょっと変わってきたんだ。闇鍋だけじゃつまらなくなってね、それで本物の暗闇を探したり、体験したり、まぁ、そんなところかなぁ」


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